アジアのインターナショナルスクールは、教室での学びだけでなく、さまざまな課外活動や文化・芸術プログラムを通じて子どもたちの才能や興味を伸ばす場として知られています。これらの活動は、子どもたちが新しい経験をし、自分の強みを見つけ、世界のさまざまな文化への理解を深める大切な機会となっています。
インターナショナルスクールの特徴は、英語を「学ぶ」場ではなく英語で「学ぶ」場であるという点です。日本の公立学校では英語を難しいものと感じさせる教え方がされがちですが、実は日本語の方が難しい言語であり、日本語を話せる子どもなら誰でも英語を話す素質を持っています。大切なのは適切な環境づくりなのです。
この記事では、アジアのインターナショナルスクールで行われている特色ある課外活動と文化・芸術プログラムについて、米国基準のインターナショナルスクールに通う息子を持つ父親の視点から紹介します。
1. 伝統文化体験プログラム
アジアのインターナショナルスクールでは、地元の伝統文化と世界各国の文化を学ぶ機会が豊富に用意されています。こうした活動を通じて、子どもたちは自分のルーツを大切にしながら、他の文化への理解と尊重の心を育みます。
1.1 ホスト国文化の学び
インターナショナルスクールでは、学校がある国の文化や習慣を深く学ぶ活動が重視されています。日本にあるインターナショナルスクールでは、茶道や書道、和太鼓などの日本の伝統文化を体験する授業が組み込まれています。息子の通う学校では、学期に一度「日本文化デー」が開かれ、地元の職人さんを招いて伝統工芸を教えてもらう活動があります。
シンガポールのユナイテッド・ワールド・カレッジ・サウスイースト・アジア(UWC SEA)というインターナショナルスクールでは、「シンガポール研究」という授業があり、子どもたちはシンガポールの多文化社会について学び、実際に地元のホーカーセンター(屋台が集まる食堂)や民族居住区を訪れて文化体験をします1。
香港のカナディアン・インターナショナル・スクール・オブ・香港では、旧正月の時期に獅子舞や中国の伝統音楽を学ぶワークショップを開き、全校で祝祭を行います。子どもたちは中国の伝統文化を体験しながら、現地の文化への理解を深めています2。
1.2 多国籍文化祭
さまざまな国の子どもたちが集まるインターナショナルスクールでは、「インターナショナル・デー」や「カルチャー・フェア」と呼ばれる多国籍文化祭が年に一度開かれるのが一般的です。各国の民族衣装を着た子どもたちが、自分の国の食べ物や遊び、音楽、ダンスなどを紹介し合います。
マレーシアのアリス・スミス・アメリカン・インターナショナル・スクールでは、50以上の国籍の生徒が在籍していることから、「グローバル・ビレッジ・デー」という行事が特に盛大に行われています。各国のブースでは保護者も協力して、民族料理の試食や伝統的な遊びの体験コーナーを設け、まるで世界一周旅行をしているような体験ができます3。
息子の学校でも同様の行事があり、息子のクラスメイトには10カ国以上の国籍の子どもたちがいます。各家庭が力を入れて準備するため、子どもたちは本物の世界文化に触れる機会になっています。このような活動は教科書だけでは学べない生きた国際理解教育となっています。
1.3 伝統芸能ワークショップ
アジアのインターナショナルスクールでは、様々な国の伝統芸能を専門家から学ぶワークショップも人気です。こうした活動は、単なる体験で終わらせず、一定期間継続して学ぶことで深い理解につなげています。
インドのアメリカン・スクール・オブ・ボンベイでは、「パフォーミング・アーツ・プログラム」の一環として、インドの古典舞踊「バラタナティヤム」や「カタック」のクラスが開かれています。これらは選択科目として通年で学ぶことができ、最終的にはステージで発表する機会もあります4。
韓国のソウル・フォーリン・スクールでは、「韓国文化プログラム」として、伝統楽器「サムルノリ」の演奏や「テコンドー」の稽古が課外活動として提供されています。子どもたちは韓国の文化を体験しながら、現地の子どもたちとの交流も深めています5。
息子の学校でも、日本の伝統芸能として和太鼓のクラブ活動があり、地元の和太鼓グループの先生が指導に来ています。年に数回の発表会では、日本人も外国人も一緒になって迫力ある演奏を披露しています。
2. 多文化芸術教育
インターナショナルスクールでは、芸術教育も重要な位置を占めています。特に、さまざまな文化の芸術表現を学ぶことで、子どもたちの創造性を育むとともに、多様な価値観を認める心を育てています。
2.1 国際的な視野での美術教育
アジアのインターナショナルスクールの美術教育は、西洋美術の伝統だけでなく、アジアや世界各地の芸術様式を取り入れた幅広いものになっています。
タイのバンコク・パタナ・スクールでは、「グローバル・アート」というプログラムがあり、子どもたちは世界各国の美術様式を学びます。例えば、アフリカのティンガティンガ・アート、中国の水墨画、インドのマンダラ、オーストラリアのアボリジニ・アートなど、様々な文化の芸術表現を実際に体験します6。
中国の上海アメリカンスクールでは、美術の授業で「シルクロード・プロジェクト」を行い、シルクロード沿いの国々の美術様式や工芸技術を学びます。子どもたちは絹織物、陶芸、ステンドグラスなどの技法を学びながら、文化交流の歴史についても理解を深めています7。
息子の学校では、各学年で「アーティスト・スタディ」として、世界の著名な芸術家の作品や技法を学ぶ時間があります。息子のクラスでは、オランダのファン・ゴッホ、日本の葛飾北斎、メキシコのフリーダ・カーロなど、様々な国の芸術家について学び、その技法を模倣した作品づくりを行いました。こうした活動を通じて、芸術には国境がないことを自然と理解していくようです。
2.2 音楽と舞踊の国際プログラム
音楽教育においても、インターナショナルスクールは多文化的なアプローチを取り入れています。西洋クラシック音楽だけでなく、世界各国の伝統音楽や現代音楽も積極的に取り入れられています。
シンガポールのタングリン・トラスト・スクールでは、「ワールド・ミュージック・プログラム」を導入し、アフリカのジャンベ、インドネシアのガムラン、カリブのスティールパンなど、様々な文化の楽器や音楽様式を学ぶ機会を提供しています。毎年開かれる「グローバル・サウンド・フェスティバル」では、子どもたちがこれらの楽器を演奏し、世界の音楽の多様性を祝います8。
台湾のタイペイ・アメリカン・スクールでは、「ダンス・アラウンド・ザ・ワールド」というプログラムがあり、中国の扇子舞、インドのボリウッドダンス、スペインのフラメンコなど、世界各国の舞踊を学びます。年度末には全校規模のダンス・ショーケースが開かれ、子どもたちは身につけた踊りを披露します9。
息子の学校でも同様に、音楽の授業では世界中の音楽を学びます。小学校3年生の時は「世界の打楽器」をテーマに、アフリカのジャンベやブラジルのサンバ打楽器などを実際に演奏する単元がありました。学校の音楽発表会では、異なる文化の音楽を組み合わせた演奏も行われ、子どもたちは音楽を通じて文化の壁を超える経験をしています。
2.3 演劇と創作活動
演劇やその他の創作活動も、インターナショナルスクールの芸術教育の重要な一部です。これらの活動を通じて、子どもたちは自己表現力やチームワークを身につけています。
香港のフレンチ・インターナショナル・スクールでは、「多言語演劇プロジェクト」を実施しています。子どもたちは英語、フランス語、中国語を織り交ぜた脚本を自分たちで作り、演じます。言語や文化の壁を超えた表現活動を通じて、多言語環境で育つ子どもたちならではの創造性を伸ばしています10。
ベトナムのサイゴン・サウス・インターナショナル・スクールでは、「ストーリーテリング・フェスティバル」が開かれます。子どもたちは自国の民話や伝説を学び、それを英語で再話したり、現代的にアレンジしたりして発表します。このプロジェクトでは、国や文化を超えた物語の普遍性と多様性の両方を学びます11。
息子の学校では、毎年各学年で演劇発表があります。息子のクラスでは、世界の昔話を現代風にアレンジした劇を上演しました。アメリカ、ロシア、アフリカ、日本など様々な地域の物語をひとつの劇にまとめ上げる過程で、子どもたちは物語の共通点と違いを発見し、文化理解を深めていました。このような創作活動は、単なる発表会以上の学びをもたらしています。
3. 社会貢献活動と国際交流
アジアのインターナショナルスクールでは、子どもたちが地域社会や世界の問題に目を向け、自分たちにできることを実践する活動も重視されています。これらの活動は、子どもたちの社会的責任感や市民意識を育む大切な機会となっています。
3.1 地域社会との連携プロジェクト
インターナショナルスクールでは、学校がある地域社会との関わりを大切にした活動が行われています。子どもたちは地域の課題を知り、それに取り組むことで、自分が住む場所への愛着と責任感を育みます。
フィリピンのブリティッシュ・スクール・マニラでは、「コミュニティ・アクション・サービス」というプログラムがあります。子どもたちは地元の公立学校や孤児院を定期的に訪問し、英語の授業を手伝ったり、施設の修繕活動に参加したりします。特に高学年の生徒は、自分たちでプロジェクトを計画し、実行する経験を通じてリーダーシップも身につけています12。
マレーシアのガーデン・インターナショナル・スクール・クアラルンプールでは、「エコ・ウォリアーズ」という環境保護グループが活動しています。子どもたちは地元のビーチクリーニングや植樹活動に参加するほか、学校内でのリサイクルシステムの運営も担当しています。これらの活動は、理科や社会の授業で学ぶ環境問題を実践的に理解する機会となっています13。
息子の学校でも同様に、「コミュニティ・サービス・デー」があり、子どもたちは学年ごとに地域の清掃活動や高齢者施設の訪問を行います。息子のクラスでは、近くの公園の清掃と花壇づくりを行いましたが、外国人の子どもたちも日本の地域社会に貢献できることを嬉しそうに話していました。このような活動は、子どもたちが「ゲスト」ではなく「コミュニティの一員」としての意識を持つ助けになっています。
3.2 グローバル・イシューへの取り組み
インターナショナルスクールでは、地球規模の課題についても学び、自分たちにできる行動を考える機会が多く設けられています。こうした活動は、世界市民としての意識を育てることにつながっています。
インドネシアのジャカルタ・インターカルチュラル・スクールでは、「サステナビリティ・ウィーク」が毎年開かれます。この週には、気候変動や海洋プラスチック汚染などの環境問題について学び、校内での廃棄物削減キャンペーンや、地元企業と連携したアップサイクル(廃棄物を価値の高いものに再生する)ワークショップなどが行われます14。
タイのインターナショナル・スクール・バンコクでは、「グローバル・シチズンシップ」という授業があり、国連の持続可能な開発目標(SDGs)に沿ったプロジェクト学習が行われています。子どもたちはグループで世界の問題について調査し、解決策を提案するプレゼンテーションを行います。特に優れたアイデアは実際に学校内や地域で実践されます15。
息子の学校では、「グローバル・チェンジメーカーズ」という課外活動グループがあり、世界の様々な問題について学びながら、募金活動や啓発キャンペーンを行っています。息子も参加したプロジェクトでは、海洋プラスチック問題について調べ、使い捨てプラスチックを減らすための提案を学校に行いました。その結果、学校のカフェテリアではストローの使用が制限され、再利用可能な食器の利用が促進されました。子どもたちの小さな行動が実際の変化につながる経験は、彼らに大きな自信と責任感をもたらしています。
3.3 国際交流プログラム
アジアのインターナショナルスクールでは、他国の学校との交流プログラムも活発に行われています。この活動を通じて、子どもたちは教室で学んだ言語や文化的知識を実践する機会を得ています。
シンガポールのスタンフォード・アメリカン・インターナショナル・スクールでは、「グローバル・エクスチェンジ・プログラム」があり、アメリカ、中国、ケニア、コスタリカなど世界各地のパートナースクールと交換留学を行っています。2週間から1か月の留学を通じて、子どもたちは異なる教育システムや文化を実際に体験します16。
日本の横浜インターナショナルスクールでは、「インターナショナル・パートナーシップ」として、アジア太平洋地域のインターナショナルスクールとのスポーツ交流や文化交流を行っています。毎年開かれる「アジア・パシフィック・アクティビティ・カンファレンス」では、スポーツ競技や芸術発表を通じて国を超えた友情を育んでいます17。
息子の学校でも、高学年になると海外研修の機会があります。シンガポール、オーストラリア、アメリカなどの姉妹校への短期留学プログラムがあり、子どもたちは現地の家庭にホームステイしながら、現地校の授業に参加します。息子の友達は昨年このプログラムに参加し、海外の友人とオンラインでつながり続けていると聞きました。このような直接的な国際交流は、教室で学ぶ異文化理解を超えた深い学びとなっています。
学校内でも、オンラインを活用した国際交流が行われています。息子のクラスでは、「グローバル・クラスルーム・プロジェクト」として、アメリカとシンガポールの学校とビデオ通話で交流し、お互いの国や学校生活について発表し合いました。言葉の壁はありましたが、準備した資料や身振り手振りで互いを理解しようとする姿勢が見られ、子どもたちの柔軟なコミュニケーション能力に驚かされました。
まとめ
アジアのインターナショナルスクールにおける課外活動と文化・芸術プログラムは、子どもたちの世界観を広げ、多様な価値観を尊重する心を育むために重要な役割を果たしています。伝統文化体験プログラム、多文化芸術教育、社会貢献活動と国際交流など、どの活動も単なる知識の習得にとどまらず、実践的な経験を通じた深い学びを提供しています。
私自身、息子がインターナショナルスクールで過ごす中で、日本語や日本文化に誇りを持ちながらも、世界の多様な文化に興味を持ち、尊重する姿勢を身につけていくのを見てきました。英語はあくまでもツールであり、大切なのはその言語を使って何を学び、どのように世界とつながるかです。
インターナショナルスクールの魅力は、「英語を学ぶ」ことではなく「英語で学ぶ」環境の中で、子どもたちの可能性を最大限に引き出すところにあります。日本国内にいながら、世界とつながり、グローバルな視点を持った子どもを育てることができるのは、インターナショナルスクールならではの強みだと感じています。
もちろん、すべてのインターナショナルスクールが同じプログラムを提供しているわけではなく、学校ごとに特色があります。子どもの興味や家族の価値観に合った学校選びが重要です。ただ、多くのインターナショナルスクールに共通しているのは、子どもの好奇心を大切にし、様々な経験を通じて「世界市民」としての意識を育てようとしている点です。
今後もインターナショナルスクールの教育は、ますますグローバル化する世界の中で、重要な選択肢であり続けるでしょう。子どもたちが将来、国境を越えて活躍するための土台づくりとして、これらの課外活動や文化・芸術プログラムが果たす役割は計り知れません。
引用・参考資料
1 United World College South East Asia (UWCSEA), “Singapore Studies Programme Annual Report 2023”
2 Canadian International School of Hong Kong, “Cultural Integration Programme Overview 2024”
3 Alice Smith School Malaysia, “Global Village Day: Celebrating Diversity Report 2023”
4 American School of Bombay, “Performing Arts Curriculum Guide 2023-2024”
5 Seoul Foreign School, “Korean Cultural Programme Handbook 2024”
6 Bangkok Patana School, “Global Art Programme: Annual Exhibition Catalogue 2023”
7 Shanghai American School, “Visual Arts Curriculum Framework 2023-2024”
8 Tanglin Trust School Singapore, “World Music Programme Overview 2024”
9 Taipei American School, “Performing Arts Annual Review 2023”
10 French International School of Hong Kong, “Multilingual Theatre Project Documentation 2024”
11 Saigon South International School, “Annual Storytelling Festival Report 2023”
12 British School Manila, “Community Action Service Impact Report 2023-2024”
13 Garden International School Kuala Lumpur, “Environmental Initiatives Annual Report 2024”
14 Jakarta Intercultural School, “Sustainability Week Programme 2023”
15 International School Bangkok, “Global Citizenship Curriculum Guide 2024”
16 Stanford American International School Singapore, “Global Exchange Programme Outcomes Report 2023”
17 Yokohama International School, “Asia Pacific Activities Conference Summary 2024”
コメント