アジアのインターナショナルスクールにおけるマルチリンガル教育の実践方法

アジアのインターナショナルスクール

アジアの多くの国では、子どもたちが複数の言葉を学び、使いこなせるようになることが大切だと考えられています。特に、インターナショナルスクールでは、さまざまな国の子どもたちが一緒に学ぶ中で、多くの言葉を身につける教育が行われています。この記事では、アジアのインターナショナルスクールで行われている多言語教育(マルチリンガル教育)の方法について、わかりやすく説明します。

私は日本で育ち、結婚前には5年間カナダで生活した経験があります。現在は、国際バカロレア(世界共通の教育プログラム)の認定を受けている米国基準のインターナショナルスクールに通う息子がいます。息子は2018年に入学し、学校での様子や先生方との話、他の保護者との交流を通じて、多言語教育について多くのことを学んできました。

多くの人は、英語を「学ぶ」場所としてインターナショナルスクールを考えますが、実際には英語「で」学ぶ場所です。また、日本の学校での英語の教え方が、英語に対する難しいという先入観を作り出していることもあります。実は、環境さえ整えば、今英語が苦手な人でも話せるようになります。日本語は世界の中でも難しい言語だと言われていますが、それを話せる私たちは、誰もが英語を話す素質を持っているのです。

効果的な言語学習環境の整備

アジアのインターナショナルスクールでは、子どもたちが自然に複数の言語を身につけられるよう、さまざまな工夫がされています。ここでは、効果的な言語学習の環境づくりについて見ていきましょう。

言語イマージョンプログラムの実施

言語イマージョンとは、学びたい言語に「浸かる」ように学ぶ方法です。シンガポールの「カナディアン・インターナショナル・スクール」では、幼稚部と小学校低学年の子どもたちに対して、一日の半分は英語、もう半分は中国語で授業を行う「デュアル言語プログラム」を取り入れています。このプログラムでは、言語を教科として学ぶのではなく、その言語を使って他の科目を学びます1

息子の通うインターナショナルスクールでも似たような取り組みがあり、英語だけでなく、日本語の時間も大切にしています。また、他の言語(スペイン語、フランス語など)を選択できる時間も設けられています。このような環境では、子どもたちは自然と複数の言語に触れ、使う機会を持つことができます。

多言語の教材と資料の活用

香港の「ビクトリア上海アカデミー」では、図書館に英語、中国語、そして生徒たちの母語の本をたくさん置いています。また、オンラインの学習材料も複数の言語で用意されています。これにより、子どもたちは自分の興味がある本を、さまざまな言語で読むことができます2

教材の選び方も大切です。韓国のソウルにある「ソウル・インターナショナル・スクール」では、同じ内容の教材を複数の言語で用意し、子どもたちが自分の得意な言語で内容を理解した後、他の言語でも学べるようにしています3

息子の学校の図書館にも、日本語と英語の本が豊富にあります。授業で使う教材も、時には日本語と英語の両方で準備されることがあります。このように、複数の言語で同じ内容を学ぶことで、どちらの言語の力も伸ばすことができます。

言語サポート体制の確立

マレーシアの「アリス・スミス・インターナショナル・スクール」では、新しく入学した生徒に対して、言語サポート教員が特別な支援を行います。これは、英語などの学校の主要言語がまだ十分でない子どもたちが、授業についていけるようにするためです4

また、タイの「バンコク・パタナ・スクール」では、「言語バディ」というシステムがあります。これは、新しく来た生徒に対して、同じ母語を持つ先輩生徒がサポート役になるというものです。学校生活の説明や、わからないことの手助けをしてくれます5

息子の学校でも、英語が苦手な生徒のために「EAL(English as an Additional Language)」というサポートクラスがあります。また、日本語を母語としない生徒のための日本語サポートも充実しています。このような支援があることで、どの子も安心して学校生活を送ることができます。

授業での多言語活用戦略

アジアのインターナショナルスクールでは、日々の授業の中でどのように複数の言語を活用しているのでしょうか。ここでは、具体的な教室での実践について見ていきましょう。

教科学習と言語習得の統合

インドの「アメリカン・スクール・オブ・ボンベイ」では、「CLIL(Content and Language Integrated Learning)」という方法を取り入れています。これは、科目の内容と言語学習を同時に行う方法です。例えば、理科の授業で実験について英語で話し合ったり、社会科で地域の歴史をヒンディー語で調べたりします6

この方法の良いところは、言語を実際に使う目的があることです。ただ言葉を覚えるのではなく、何かを学んだり、調べたり、友達と話し合ったりするために言葉を使うので、より自然に身につきます。

息子の学校でも、社会科の授業で日本の歴史や文化について学ぶときには、日本語の資料も使います。また、算数の問題を解くときには、英語と日本語の両方で考える練習をすることもあります。このように、言語と教科の学習をつなげることで、どちらも深く理解できるようになります。

言語間のつながりを意識した指導

台湾の「台北アメリカンスクール」では、「言語間転移」という考え方を大切にしています。これは、一つの言語で学んだことが、他の言語の学習にも役立つという考え方です。例えば、中国語で物語の構造を学んだら、その知識を英語の物語を読むときにも活かせます7

また、日本の「横浜インターナショナルスクール」(私の息子の学校とは別の学校です)では、複数の言語を比較する活動を行っています。例えば、同じ概念が異なる言語でどのように表現されるかを調べたり、ことわざや表現の違いを話し合ったりします8

息子の学校では、国語(日本語)と英語の授業で、似たような技能(例:物語の要素を見つける、意見文を書くなど)を学ぶときには、両方の言語の先生が協力して授業を計画することがあります。一つの言語で学んだことを、もう一つの言語でも使えるようにする工夫です。

多様な評価方法の採用

シンガポールの「ユナイテッド・ワールド・カレッジ・オブ・サウスイースト・アジア」では、生徒の言語能力を評価するとき、ただテストで点数をつけるだけではなく、さまざまな方法を使います。例えば、プロジェクト発表、作文、会話の様子などを総合的に見ます9

中国の「上海アメリカンスクール」では、「言語ポートフォリオ」というものを作っています。これは、生徒自身が自分の言語学習の進み具合を記録するものです。どんな本を読んだか、どんな会話ができるようになったかなどを、時間をかけて集めていきます10

息子の学校でも、言語の力を多面的に評価しています。読む力、書く力、聞く力、話す力をバランスよく見るために、さまざまな活動が行われます。また、定期的に行われる三者面談(生徒・保護者・教師)では、子どもの言語発達について詳しく話し合われます。

文化理解と言語習得の連携

言語を学ぶことは、その言語が使われている文化を理解することと深く関わっています。アジアのインターナショナルスクールでは、どのように言語と文化の学びをつなげているのでしょうか。

多文化体験活動の実施

フィリピンの「ブリティッシュ・スクール・マニラ」では、年間を通じて「インターナショナル・デー」や「文化祭」などの行事を開催しています。これらの行事では、生徒たちが自分の国の文化を紹介したり、他の国の文化について学んだりします。また、その国の言葉で挨拶や簡単な会話を練習する機会もあります11

ベトナムの「ホーチミン市インターナショナルスクール」では、地域社会との交流を大切にしています。地元のベトナム人学校との交流プログラムや、地域のお祭りへの参加などを通じて、生徒たちはベトナム語を実際に使う機会を持ちます12

息子の学校でも、日本文化を体験する行事がたくさんあります。お正月には餅つき、春には花見、夏には盆踊りなど、季節ごとの行事を通じて、日本語と日本文化を同時に学びます。また、他の国の文化を紹介する「インターナショナル・デー」もあり、各国の言葉や食べ物、遊びなどを体験できます。

言語を通じた地域社会との連携

インドネシアの「ジャカルタ・インターカルチュラル・スクール」では、「コミュニティ・サービス・ラーニング」という活動を行っています。これは、地域の課題解決に取り組みながら学ぶ方法です。例えば、地域の子どもたちに英語を教えたり、地元の環境問題について調査したりする中で、インドネシア語も使います13

マレーシアの「アリス・スミス・インターナショナル・スクール」では、地元の市場や商店を訪れる「フィールドトリップ」を定期的に行っています。そこでは、マレー語や中国語を使って買い物をしたり、地元の人と会話したりする体験ができます14

息子の学校でも、日本の地域社会とのつながりを大切にしています。近くの公園の清掃活動や、地元のお年寄りとの交流会などを通じて、日本語を使う機会が増えます。また、海外からの生徒にとっては、日本社会を理解する貴重な機会となっています。

家庭と学校の協力による言語支援

シンガポールの「スタンフォード・アメリカン・インターナショナル・スクール」では、「ホーム・ランゲージ・プログラム」という取り組みがあります。これは、家庭での母語の使用を学校が積極的に支援するものです。保護者向けのワークショップを開いたり、家庭で使える教材を提供したりしています15

韓国の「ソウル外国人学校」では、「二言語家庭のための支援グループ」があります。異なる言語背景を持つ両親が、子どもの言語発達をどのように支えるかについて、情報交換や相談ができる場です16

息子の学校でも、「母語保持の重要性」について、入学時のオリエンテーションやワークショップで説明があります。多くの研究が示すように、母語がしっかりしていると、第二言語の習得も進みやすくなります。そのため、「家では母語で会話を」という助言がされています。また、保護者同士のネットワークを通じて、同じ言語を話す家庭どうしのつながりも生まれています。

マルチリンガル教育は、単に複数の言語を教えるだけではありません。子どもたちが自分のアイデンティティを大切にしながら、異なる文化や考え方を理解し、世界中の人々とつながる力を育てることが目標です。

アジアのインターナショナルスクールでは、多様な背景を持つ子どもたちが共に学ぶ中で、言語の壁を超えた理解と交流が生まれています。それは、これからの国際社会で生きていく子どもたちにとって、大切な力となるでしょう。

息子の学校での経験を通して感じるのは、言語は「勉強するもの」ではなく、「使うもの」だということです。実際に友達と話したり、何かを一緒にしたりする中で、自然と言葉は身についていきます。また、完璧に話せなくても、自分の考えを伝えようとする気持ちが大切だということも学びました。

私たち保護者も、子どもたちの言語学習を支えるために、多くのことができます。家庭での会話を大切にすること、様々な言語の本や映画に触れる機会を作ること、そして何より、言語学習を楽しむ姿勢を見せることが重要だと思います。

アジアのインターナショナルスクールでのマルチリンガル教育の実践は、まだ発展途上にあります。しかし、子どもたちがのびのびと複数の言語を使いこなせるよう、学校、家庭、地域社会が協力して取り組む姿勢は、これからの教育のあり方を示していると言えるでしょう。

引用・参考文献

1 カナディアン・インターナショナル・スクール シンガポールの公式教育プログラム紹介資料(2023年)

2 ビクトリア上海アカデミーの言語教育方針に関する年次報告書(2022年)

3 ソウル・インターナショナル・スクールの多言語教育実践に関する教育者会議発表資料(2023年)

4 アリス・スミス・インターナショナル・スクール マレーシアの言語サポートプログラム概要(2022年)

5 バンコク・パタナ・スクールの新入生サポートシステムに関する保護者向けハンドブック(2023年)

6 アメリカン・スクール・オブ・ボンベイの教科横断型言語教育実践報告書(2022年)

7 台北アメリカンスクールの言語教育カリキュラム開発資料(2023年)

8 横浜インターナショナルスクールの言語間比較学習プロジェクト実施報告(2022年)

9 ユナイテッド・ワールド・カレッジ・オブ・サウスイースト・アジアの言語評価システム解説資料(2023年)

10 上海アメリカンスクールの言語ポートフォリオ実践に関する教育研究紀要(2022年)

11 ブリティッシュ・スクール・マニラの文化交流行事年間予定表(2023年)

12 ホーチミン市インターナショナルスクールの地域連携プログラム活動報告書(2022年)

13 ジャカルタ・インターカルチュラル・スクールのサービスラーニングプロジェクト事例集(2023年)

14 アリス・スミス・インターナショナル・スクール マレーシアのフィールドトリップ実施ガイドライン(2022年)

15 スタンフォード・アメリカン・インターナショナル・スクール シンガポールの家庭言語支援プログラム資料(2023年)

16 ソウル外国人学校の二言語家庭支援ネットワーク活動報告(2022年)

コメント

タイトルとURLをコピーしました