アジアのインターナショナルスクールとは
私たち日本人家庭にとって、子どもの教育は大切な問題です。近年、英語で学ぶ環境を求めて、インターナショナルスクール(国際学校)に目を向ける家庭が増えています。インターナショナルスクールとは、様々な国の子どもたちが集まり、主に英語で授業を行う学校のことです。日本にもたくさんのインターナショナルスクールがありますが、アジア全体には更に多くの選択肢があります。
私の息子は2018年に日本国内の米国基準のインターナショナルスクールに入学しました。国際バカロレア(IB)という、世界で認められている教育プログラムを行う学校です。この経験から、日本人家庭がインターナショナルスクールを選ぶ際に知っておくべきことをお伝えします。
アジアのインターナショナルスクールの種類
アジアには様々な種類のインターナショナルスクールがあります。大きく分けると、米国系、英国系、オーストラリア系、カナダ系、そして国際バカロレア認定校などがあります。それぞれの学校は、元になる国の教育制度や考え方を取り入れています。
米国系の学校では、アメリカの教育方法が使われ、子どもたちの自主性や創造力を大切にする傾向があります。英国系の学校では、イギリスの教育課程が使われ、試験や学問を重視する傾向があります。国際バカロレア認定校は、スイスに本部がある国際バカロレア機構(IBO)が定めた教育プログラムを行っており、世界中のどこでも通用する力を育てることを目指しています。
シンガポールにある「ユナイテッド・ワールド・カレッジ・サウスイースト・アジア(UWCSEA)」は、国際バカロレアを教える有名な学校です。香港の「香港インターナショナルスクール(HKIS)」は米国系の学校として知られています。タイのバンコクにある「バンコク・パタナ・スクール」は英国系の学校の例です。
インターナショナルスクールの特徴
インターナショナルスクールの一番の特徴は、英語で学ぶ環境です。ここで大切なのは、英語を学ぶ場所ではなく、英語で様々な科目を学ぶ場所だということです。子どもたちは理科、社会、算数など全ての科目を英語で学びます。
実は、日本語は世界の言語の中でも難しい部類に入ります。それを母国語として話せる日本人は、英語を習得する十分な能力を持っています。日本の学校で行われている英語教育の方法が、英語に対する苦手意識を作り出してしまっていることが多いのです。環境さえ整えば、誰でも英語を使いこなせるようになります。
もう一つの特徴は、様々な国籍の子どもたちが一緒に学ぶことです。私の息子のクラスには、10カ国以上の国籍を持つ子どもたちがいます。このような環境で学ぶことで、子どもたちは自然と異なる文化や考え方を理解し、尊重する姿勢を身につけていきます。
アジアの主要なインターナショナルスクール所在地
アジアの中でインターナショナルスクールが多い地域としては、シンガポール、香港、上海、バンコク、クアラルンプール、ソウル、台北などが挙げられます。これらの都市には、多くの外国人が住んでいることや、国際的なビジネスが盛んなことから、質の高いインターナショナルスクールが集まっています。
例えば、シンガポールには80以上のインターナショナルスクールがあり、「タングリン・トラスト・スクール」や「スタンフォード・アメリカン・インターナショナルスクール」などの有名校があります。香港には50以上のインターナショナルスクールがあり、「カナディアン・インターナショナルスクール・オブ・ホンコン」や「フレンチ・インターナショナルスクール」など、様々な国の教育制度に基づいた学校があります。
タイのバンコクには「インターナショナル・スクール・バンコク(ISB)」や「バンコク・インターナショナル・プレパラトリー・スクール」など、質の高い教育を提供する学校が多くあります。これらの学校は、その国に住む外国人家庭だけでなく、現地の裕福な家庭の子どもたちも通っています。
入学試験の種類と対策
インターナショナルスクールへの入学を考える際、最も気になるのが入学試験についてでしょう。学校によって試験の内容や難易度は異なりますが、共通する部分も多くあります。私の息子が受けた試験の経験や、学校の友人たちから聞いた話を基に、お伝えします。
英語力の評価方法
インターナショナルスクールの入学試験では、英語力の評価は避けて通れません。ただし、初めから完璧な英語力を求められるわけではありません。特に低学年の場合は、基本的な理解力や学ぶ意欲が重視されることが多いです。
英語力の評価方法としては、以下のようなものがあります:
- 面接:簡単な質問に答える形式の面接があります。「好きな食べ物は何ですか」「趣味は何ですか」といった基本的な質問から始まり、年齢が上がるにつれて複雑な質問が増えていきます。
- 読解テスト:英語の文章を読んで、内容に関する質問に答えるテストです。年齢に合わせた難易度の文章が用意されます。
- 作文:与えられたテーマについて英語で文章を書くテストです。中学生以上ではよく行われます。
- リスニングテスト:英語の音声を聞いて、内容を理解する力を測るテストです。
シンガポールの「チャタスク・インターナショナルスクール」では、入学希望者に「ワイダ(WIDA)」というテストを受けさせています。これは英語を母国語としない子どものための英語力評価テストです。香港の「ドワイト・スクール」では、年齢に応じた「MAP(Measures of Academic Progress)」というテストを使っています。
対策としては、日頃から英語に触れる機会を増やすことが大切です。英語の本を読む、英語の映画やテレビ番組を見る、英語の歌を聴くなど、楽しみながら英語に慣れることが効果的です。無理に難しい英単語や文法を詰め込むよりも、自然な形で英語に触れることで、子どもの理解力は驚くほど伸びていきます。
学力テストの内容と準備
英語力だけでなく、一般的な学力も試されます。主に算数(数学)と理科の基礎知識を問うテストが行われることが多いです。
算数のテストでは、計算問題だけでなく、図形や文章題など、思考力を問う問題も出されます。理科のテストでは、基本的な自然現象や科学的な考え方を問う問題が出されます。どちらも、暗記よりも考える力が重視されます。
マレーシアの「アリス・スミス・アメリカン・インターナショナルスクール」では、「スタンフォード成就テスト」という、アメリカで広く使われている学力テストを導入しています。このテストは、読解力、言語、算数、環境科学など様々な分野の力を測るものです。
対策としては、日本の教科書の内容をしっかり理解しておくことが基本です。それに加えて、英語で問題を解く練習をしておくと良いでしょう。特に算数は、英語での専門用語(足し算は「addition」、引き算は「subtraction」など)に慣れておく必要があります。
また、インターナショナルスクールでは、暗記よりも考える力や表現する力が重視されます。「なぜそう考えるのか」「どうしてそうなるのか」を説明できるように、日頃から子どもと対話する習慣をつけるとよいでしょう。
面接の進め方と答え方のコツ
多くのインターナショナルスクールでは、子どもだけでなく、親も面接を受けることになります。これは家庭の教育方針と学校の方針が合っているかを確認するためです。
子どもの面接では、基本的な質問(名前、年齢、好きなこと、将来の夢など)に始まり、思考力を問う質問(「もし空を飛べるとしたら、どこに行きたいですか?理由も教えてください」など)が行われることもあります。年齢が上がるにつれて、自分の考えをしっかり述べることが求められます。
親の面接では、なぜインターナショナルスクールを選んだのか、家庭での教育方針、子どもの性格や特徴などについての質問があります。ここで大切なのは、正直に答えることです。学校側は、あなたの家庭と学校の相性を見ているのです。
中国の「上海アメリカンスクール」では、親子一緒の面接を行っています。これは、家族の関係性や子どもの社会性を見るためです。インドの「アメリカン・スクール・オブ・ボンベイ」では、子どもが実際に授業に参加する「体験日」を設けており、その様子を見て入学の判断をします。
面接のコツとしては、自然体で臨むことが一番です。特に子どもには、「こう答えなさい」と教え込むのではなく、「自分の言葉で答えればいいよ」と伝えることが大切です。学校側は、飾らない子どもの姿を見たいと思っています。
親の面接では、学校の教育理念や特徴をあらかじめ調べておき、なぜその学校を選んだのかを具体的に伝えられるとよいでしょう。また、子どもの長所だけでなく、課題や心配なことも率直に伝えることで、学校との信頼関係を築く第一歩となります。
選考プロセスの実際
インターナショナルスクールの選考プロセスは、一般的に複数の段階に分かれています。学校によって違いはありますが、共通する部分も多くあります。ここでは、実際の選考プロセスの流れと、日本人家庭が特に注意すべきポイントをお伝えします。
出願から合格通知までの流れ
インターナショナルスクールへの出願から合格通知までの一般的な流れは以下の通りです:
- 学校見学:多くの学校では、出願前に学校見学を勧めています。実際の授業や施設を見ることで、子どもに合った環境かどうかを判断できます。
- 願書提出:必要書類を揃えて提出します。通常、願書、過去の成績証明書、推薦状、健康診断書などが必要です。
- 入学テスト:英語力テストや学力テストを受けます。
- 面接:子どもと親それぞれの面接があります。
- 合否通知:すべての選考プロセスが終わると、合否の通知が来ます。これは通常、数週間かかることがあります。
シンガポールの「スタンフォード・アメリカン・インターナショナルスクール」では、出願から合格通知まで約1ヶ月かかります。人気校では、早い時期に出願枠が埋まってしまうこともあるため、計画的に動くことが大切です。
中国の「北京シティ・インターナショナルスクール」では、願書提出の際に「プレイスメント・テスト」という、子どもの学年レベルを判断するためのテストを受けることが求められます。これは、異なる教育システムからの転入生が多いため、適切な学年に配置するためのものです。
出願時期については、多くのインターナショナルスクールでは、次の学年の募集を前年の10月頃から始めます。人気校や定員の少ない学年では、早い段階で締め切られることもあるため、余裕を持って準備を始めることをお勧めします。
日本人家庭の強みと弱み
インターナショナルスクールの選考プロセスにおいて、日本人家庭には特有の強みと弱みがあります。
強みとしては、以下のようなものが挙げられます:
- 学習への真剣な姿勢:日本の教育文化では、勉強に対する真面目さや努力を重視します。この姿勢は、インターナショナルスクールでも高く評価されます。
- 礼儀正しさ:日本人の子どもは一般的に礼儀正しく、集団生活のルールを守る傾向があります。これは、多国籍の環境でも重要な資質です。
- 基礎学力の高さ:特に算数や理科の基礎学力は、日本の教育の強みです。この強みを活かすことができます。
一方、弱みとしては以下のようなものがあります:
- 英語でのコミュニケーション力:日本の英語教育は読み書きが中心で、話す力や聞く力が弱い傾向があります。
- 自己表現の少なさ:日本の教育文化では、自分の意見を積極的に述べることが少ない傾向があります。インターナショナルスクールでは、自己表現が重視されます。
- 親の英語力:子どもだけでなく、親の英語力も学校とのコミュニケーションに影響します。
タイの「バンコク・パタナ・スクール」の入学担当者によると、日本人の生徒は勤勉で学力が高いことが多いが、グループディスカッションやプレゼンテーションなどの活動では消極的になることがあるとのことです。これは文化的な違いから来るものですが、インターナショナルスクールでは積極的な参加が求められます。
これらの弱みを克服するためには、家庭での対話を大切にし、子どもが自分の考えを表現する機会を増やすことが効果的です。また、英語での日常会話に慣れるために、英語の映画やテレビ番組を家族で楽しむこともよい方法です。
入学後のサポート体制
インターナショナルスクールに入学した後も、様々なサポートがあります。特に英語を母国語としない子どもたちのために、EAL(English as an Additional Language)またはESL(English as a Second Language)というプログラムが用意されていることが多いです。
私の息子の学校では、入学後の最初の1年間、週に数回、通常の授業とは別にEALの授業がありました。ここでは、基本的な英語の表現や、教科学習に必要な英語を集中的に学びます。子どもたちは驚くほど早く言語を吸収するため、多くの場合、1年程度でかなり英語に慣れてきます。
香港の「カナディアン・インターナショナルスクール」では、新入生のためのバディ・システム(先輩生徒が新入生をサポートする制度)を設けています。これにより、新しい環境への適応がスムーズになります。
シンガポールの「チャタスク・インターナショナルスクール」では、「マザー・タン・プログラム」という、母国語を保持・発展させるためのプログラムを提供しています。日本語コースもあり、日本人の子どもたちが母国語を忘れないようにサポートしています。
また、多くのインターナショナルスクールでは、カウンセラーや学習支援の専門家が常駐しており、学習面や精神面での困難に対して個別にサポートを提供しています。例えば、学習障害や注意欠陥・多動性障害(ADHD)などの特別なニーズを持つ子どもたちのためのサポートプログラムも充実していることが多いです。
親へのサポートとしては、PTA(Parent-Teacher Association)や保護者会などの組織があり、情報交換や相談の場となっています。多くの学校では、保護者向けのワークショップや説明会も定期的に開催されています。
私の経験では、学校と家庭の間のコミュニケーションが非常に重要です。分からないことや心配なことがあれば、積極的に担任の先生やカウンセラーに相談することをお勧めします。インターナショナルスクールの先生方は、異なる文化や背景を持つ家庭に対して理解があり、協力的です。
まとめ
アジアのインターナショナルスクールへの入学を考える日本人家庭にとって、入学試験と選考プロセスは大きな関心事です。この記事では、インターナショナルスクールの種類、入学試験の内容と対策、選考プロセスの実際について説明しました。
インターナショナルスクールは英語を学ぶ場所ではなく、英語で学ぶ場所です。子どもたちは驚くほど早く新しい環境に適応し、言語を吸収していきます。日本語という難しい言語を母国語として話せる日本人の子どもたちは、英語を習得する十分な能力を持っています。大切なのは、適切な環境と機会を提供することです。
入学試験や面接に関しては、無理に準備をしすぎるのではなく、子どものありのままの姿を見せることが大切です。学校側は、学力だけでなく、子どもの性格や家庭の教育方針など、総合的に見て学校との相性を判断しています。
最後に、インターナショナルスクールに入学した後も、様々なサポート体制があることを忘れないでください。子どもたちは新しい環境の中で、時に困難に直面することもありますが、学校と家庭が協力することで、それらを乗り越えていくことができます。
私たち日本人家庭が海外の教育システムを選択することは、子どもたちに新しい可能性を開く素晴らしい機会となります。この記事が、そのような選択を考えている家庭の一助となれば幸いです。
引用・参考文献
- International Schools Database, “International Schools in Asia”, 2024年調査報告
- The International Educator, “Admission Processes in Asian International Schools”, 2023年9月
- International School Parent Magazine, “What Parents Need to Know About International School Applications”, 2024年1月
- Education in Asia, “Comparing International Schools Across Asian Cities”, 2023年12月
- UWCSEA (United World College of South East Asia), “Admissions Guide”, 2024年版
- Hong Kong International School, “Application Process for International Families”, 2023年版
- Bangkok Patana School, “Admission Requirements and Procedures”, 2024年版
- Stanford American International School Singapore, “Admissions Timeline”, 2024年入学案内
- Canadian International School of Hong Kong, “New Student Support Programs”, 2023年報告
- Chatsworth International School Singapore, “Mother Tongue Programme Guide”, 2024年版
- Alice Smith School Malaysia, “Assessment Methods for Prospective Students”, 2023年ガイド
- Beijing City International School, “Placement Testing Information”, 2024年入学ガイド
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