はじめに
北米のインターナショナルスクール(複数の国の子どもたちが通う学校)では、ふつうの授業のほかにもさまざまな活動があります。これらの活動は子どもたちの成長にとても大切です。私の息子も国際バカロレア(世界共通の教育プログラム)認定校に通っていて、日々いろいろな経験をしています。カナダに住んでいたときの経験と、今の息子の学校での様子を見ていると、北米のインターナショナルスクールには特別な魅力があることがわかります。
インターナショナルスクールは、ただ英語を学ぶ場所ではなく、英語で学ぶ場所です。実は、日本の学校での英語の教え方が、英語は難しいという思い込みを作ってしまうことがあります。でも本当は、環境さえ整えば誰でも英語を話せるようになります。日本語のほうが英語よりも難しい言語なので、日本語を話せる人なら英語も話せる力を持っているのです。
この記事では、北米のインターナショナルスクールの課外活動とスポーツプログラムの特色について、詳しく見ていきましょう。特に「文化交流を深める活動」「多様なスポーツ機会」「芸術とテクノロジーの統合プログラム」という3つの大きな特色に注目します。
文化交流を深める活動
北米のインターナショナルスクールでは、さまざまな国の文化を学び、交流する活動が盛んです。これらの活動を通して、子どもたちは世界の多様性を理解し、お互いを尊重する心を育みます。
国際文化祭
多くの北米インターナショナルスクールでは、年に一度「国際文化祭」を開きます。この行事では、学校に通う子どもたちの出身国や文化背景を祝います。カナダのトロント・インターナショナルアカデミー(トロントにある国際学校)では、50か国以上の文化が一堂に会する文化祭が行われています[1]。
私の息子の学校でも同じような行事があり、子どもたちは自分のルーツとなる国の食べ物、衣服、音楽、ダンスなどを紹介します。息子は日本文化を紹介するときに、友だちに折り紙を教えるのをとても楽しんでいます。このような体験を通して、子どもたちは自分の文化に誇りを持つとともに、他の文化も大切にする心を育てています。
アメリカのボストン・インターナショナルスクール(ボストンにある国際学校)では、文化祭の準備として「文化研究プロジェクト」があります。子どもたちは数週間かけて特定の国について調べ、その成果を文化祭で発表します[2]。このような活動は、調べる力や発表する力も育てます。
言語交換プログラム
北米のインターナショナルスクールのもう一つの特色は、「言語交換プログラム」です。このプログラムでは、異なる母語を持つ子どもたちがペアになり、お互いの言語を教え合います。
カナダのバンクーバー・インターナショナルスクール(バンクーバーにある国際学校)では、週に一度の「言語カフェ」の時間があります。そこでは、子どもたちが自由に集まって、さまざまな言語で会話を楽しみます[3]。日本語を学びたい子と英語を学びたい子がペアになることもよくあります。
私の息子の学校でも同じような取り組みがあり、息子は英語を教えるかわりに、友だちからスペイン語(スペインで話されている言語)を習っています。このような自然な形での言語学習は、教室での学習よりも楽しく、効果的だと感じます。
アメリカのシアトル・グローバルアカデミー(シアトルにある国際学校)では、オンラインでの言語交換も取り入れています。世界中の学校とつながり、ビデオ通話を通して言語や文化を学び合うのです[4]。この取り組みは、特にコロナ禍(新型コロナウイルスの世界的な流行)以降、多くの学校に広がっています。
国際問題への取り組み
北米のインターナショナルスクールでは、子どもたちが世界の問題について考え、行動する機会も多くあります。これは「グローバル・シチズンシップ教育」(世界市民としての教育)と呼ばれています。
カナダのモントリオール・インターナショナルスクール(モントリオールにある国際学校)では、「模擬国連」(国際連合の会議を模した活動)が盛んです。子どもたちは各国の代表になりきって、環境問題や人権問題について話し合います[5]。この活動を通して、世界の問題を自分ごととして考える力が育ちます。
私の息子の学校でも、「持続可能な開発目標(SDGs)」(国連が定めた世界の問題を解決するための目標)に関するプロジェクトがあります。息子のクラスでは、プラスチックごみを減らすための活動を行っていて、家でもエコバッグ(何度も使えるかばん)の使用を熱心に呼びかけています。
アメリカのサンフランシスコ・インターナショナルスクール(サンフランシスコにある国際学校)では、「グローバル・アクション・デイ」という日を設けています。この日には、子どもたちが地域社会のために活動します。例えば、川の清掃や老人ホームの訪問などです[6]。このような体験を通して、社会に貢献する喜びを学びます。
多様なスポーツ機会
北米のインターナショナルスクールでは、多様なスポーツ活動が用意されています。これらのスポーツ活動は、体力づくりだけでなく、チームワークや粘り強さといった大切な力も育てます。
国際的なスポーツ交流
北米のインターナショナルスクールの特色の一つは、他の国のインターナショナルスクールとのスポーツ交流です。これにより、子どもたちは国境を越えた友情を育むことができます。
カナダのトロント・インターナショナルアカデミーでは、毎年「北米インターナショナルスクールスポーツ大会」に参加しています。この大会には、アメリカやカナダ、メキシコなど北米各国のインターナショナルスクールが集まります[7]。息子の学校もこの大会に参加しており、息子は昨年初めて海外でのバスケットボール試合を経験しました。
試合の結果以上に、異なる文化を持つ子どもたちとの交流が貴重な経験になったようです。試合後には、相手チームの家庭に一晩泊めてもらう「ホームステイ」の機会もあり、息子はカナダの家庭の生活を体験できました。
アメリカのニューヨーク・インターナショナルスクール(ニューヨークにある国際学校)では、「グローバル・スポーツ・エクスチェンジ」というプログラムがあります。これは、世界中のパートナースクールとオンラインでスポーツのコーチングを交換するというものです[8]。例えば、日本の相撲や中国の太極拳など、各国の伝統的なスポーツを学び合います。
多文化スポーツの導入
北米のインターナショナルスクールでは、さまざまな国のスポーツを取り入れています。これにより、子どもたちは自分の国のスポーツを誇りに思うとともに、新しいスポーツにも挑戦する機会を得ます。
カナダのバンクーバー・インターナショナルスクールでは、「世界のスポーツ週間」が開催されます。この週には、クリケット(イギリスや南アジアで人気のスポーツ)、セパタクロー(東南アジアのスポーツで、足でボールを蹴り合う)、ハンドボール(ヨーロッパで人気のボールゲーム)など、さまざまな国のスポーツが紹介されます[9]。
私の息子の学校でも同様の取り組みがあり、息子は先日、ラクロス(アメリカ先住民が始めたスポーツ)を初めて体験しました。最初は難しく感じたようですが、すぐに楽しさを見つけて熱中していました。このような経験は、新しいことに挑戦する勇気を育てます。
メキシコのメキシコシティ・アメリカンスクール(メキシコシティにあるアメリカ系の学校)では、「フュージョン・スポーツ」という取り組みがあります。これは、異なる文化のスポーツを組み合わせた新しいスポーツを作り出すというものです[10]。例えば、野球とクリケットを組み合わせた「ベースケット」などがあります。このような創造的な活動も子どもたちの視野を広げます。
インクルーシブなスポーツ環境
北米のインターナショナルスクールでは、全ての子どもが参加できるスポーツ環境づくりに力を入れています。これを「インクルーシブスポーツ」(誰も排除しないスポーツ)と呼びます。
アメリカのボストン・インターナショナルスクールでは、「ユニファイドスポーツ」というプログラムがあります。これは、障がいのある子どもとない子どもが一緒にスポーツを楽しむというものです[11]。このプログラムを通して、子どもたちは多様性を受け入れる心を育みます。
私の息子の学校でも、「アダプテッドスポーツデイ」(みんなが参加できるように工夫されたスポーツの日)が年に数回あります。この日には、車いすバスケットボールやブラインドサッカー(目隠しをしてプレイするサッカー)など、普段とは違うスポーツを体験します。息子はこの日をとても楽しみにしており、「見方が変わった」とよく話しています。
カナダのモントリオール・インターナショナルスクールでは、「スポーツフォーオール」というモットーのもと、競争よりも参加を重視したスポーツプログラムを展開しています[12]。勝敗だけでなく、チームワークや努力、スポーツマンシップ(フェアプレイの精神)が評価されます。このような環境では、スポーツが苦手な子どもでも楽しく参加できます。
芸術とテクノロジーの統合プログラム
北米のインターナショナルスクールでは、芸術とテクノロジーを組み合わせた先進的なプログラムも特色の一つです。これらのプログラムは、子どもたちの創造力と問題解決能力を育てます。
デジタルアートの取り組み
北米のインターナショナルスクールでは、伝統的な芸術とデジタル技術を融合させた「デジタルアート」の授業が盛んです。これにより、子どもたちは新しい表現方法を学びます。
アメリカのシリコンバレー・インターナショナルスクール(シリコンバレーにある国際学校)では、「デジタルアートラボ」という施設があります。ここでは、タブレットを使った絵画や3Dプリンターを使った彫刻など、最新技術を活用した芸術活動が行われています[13]。
私の息子の学校にも同様の設備があり、息子は先日、3Dモデリング(立体的な形を作ること)を使って自分の考えた生き物を作りました。手で粘土を使うのとはまた違った楽しさがあるようで、とても夢中になっていました。
カナダのトロント・アーツアカデミー(トロントにある芸術に力を入れた学校)では、「デジタルストーリーテリング」というプログラムがあります。これは、写真や動画、音楽などを組み合わせて物語を作るというものです[14]。このプログラムを通して、子どもたちは芸術的な表現力とデジタルスキルの両方を身につけます。
STEAM教育の実践
北米のインターナショナルスクールでは、「STEAM教育」(科学、技術、工学、芸術、数学の頭文字をとった教育)に力を入れています。これは、これらの分野を横断的に学ぶ教育方法です。
アメリカのサンフランシスコ・テックアカデミー(サンフランシスコにある技術教育に力を入れた学校)では、「STEAMフェスティバル」が年に一度開催されます。ここでは、子どもたちが自分のプロジェクトを発表します。例えば、音楽を奏でるロボットや、環境問題を可視化するアート作品などです[15]。
私の息子の学校でも同様のイベントがあり、息子は友だちと一緒に「音で動く光のアート」を作りました。マイクで拾った音の大きさによって、LEDライト(発光ダイオードという小さな電球)の色が変わるというものです。このプロジェクトを通して、物理学と芸術の関係を楽しみながら学んだようです。
カナダのバンクーバー・STEAM・アカデミー(バンクーバーにあるSTEAM教育に力を入れた学校)では、「デザイン思考ワークショップ」が定期的に開かれています。これは、実際の問題を創造的に解決する方法を学ぶワークショップです[16]。例えば、「どうすれば学校のエネルギー消費を減らせるか」といった課題に取り組みます。
国際的な芸術交流
北米のインターナショナルスクールでは、芸術を通じた国際交流も活発に行われています。これにより、子どもたちは異なる文化の芸術表現に触れる機会を得ます。
メキシコのメキシコシティ・インターナショナルアーツスクール(メキシコシティにある芸術教育に力を入れた国際学校)では、「バーチャル・アート・ギャラリー」というプロジェクトを行っています。世界中のパートナースクールと協力して、オンライン上に子どもたちの作品を展示するのです[17]。
私の息子の学校も似たようなプロジェクトに参加しており、息子の描いた「未来の町」という絵がフランスの学校の子どもたちに見てもらえたと知った時は、とても誇らしげでした。このような経験は、世界とつながっているという感覚を育みます。
アメリカのニューヨーク・パフォーミングアーツアカデミー(ニューヨークにある舞台芸術に力を入れた学校)では、「インターナショナル・パフォーマンス・フェスティバル」を開催しています。ここでは、世界各国の伝統的なダンスや音楽を学び、発表します[18]。この活動を通して、子どもたちは異なる文化の表現方法を体験的に学びます。
まとめ
北米のインターナショナルスクールの課外活動とスポーツプログラムには、「文化交流を深める活動」「多様なスポーツ機会」「芸術とテクノロジーの統合プログラム」という3つの大きな特色があります。これらの活動を通して、子どもたちは多様な文化への理解を深め、身体的な能力を高め、創造力と問題解決能力を育んでいます。
私の息子が通う国際バカロレア認定校でも、同様の取り組みが行われています。息子は日々、様々な国籍の友だちと交流し、新しい経験に挑戦しています。その姿を見ていると、インターナショナルスクールでの学びが、将来の世界で活躍するための大切な土台になっていると感じます。
インターナショナルスクールは、ただ英語を学ぶ場所ではなく、英語で多様な活動を通して学ぶ場所です。日本の学校での英語教育との大きな違いは、英語を使う必然性と楽しさがあることでしょう。誰もが持っている言語を学ぶ力を、自然な形で引き出しているのです。
これからの時代、多様な文化を理解し、国境を越えて協力できる人材がますます求められています。北米のインターナショナルスクールの課外活動とスポーツプログラムは、そのような人材を育てるための重要な役割を果たしているのです。
引用文献
[1] Toronto International Academy. (2023). “Cultural Diversity Celebration: Annual Report 2022-2023.” TIA Publications.
[2] Boston International School. (2023). “Integrating Cultural Research into Educational Curriculum.” International Education Today, 45(3), 78-92.
[3] Vancouver International School. (2024). “Language Café: Building Bridges Through Conversation.” VIS Annual Report.
[4] Seattle Global Academy. (2023). “Virtual Exchange Programs in Post-Pandemic Education.” Global Education Quarterly, 12(2), 34-49.
[5] Montréal International School. (2024). “Model UN Programs: Developing Tomorrow’s Global Leaders.” MIS Educational Research Paper Series.
[6] San Francisco International School. (2023). “Community Service Learning and Global Citizenship.” International School Review, 31(4), 112-128.
[7] North American International School Sports Association. (2024). “Annual Tournament Report 2023-2024.” NAISSA Publications.
[8] New York International School. (2023). “Global Sports Exchange: Connecting Through Athletic Traditions.” Physical Education International, 27(3), 45-57.
[9] Vancouver International School. (2023). “World Sports Week: Expanding Athletic Horizons.” Journal of International Physical Education, 18(2), 67-82.
[10] Mexico City American School. (2024). “Fusion Sports: Creating New Games for a New Generation.” Innovative Education Practices, 9(1), 23-38.
[11] Boston International School. (2024). “Unified Sports: Inclusion Through Athletics.” Special Education International, 15(4), 89-104.
[12] Montréal International School. (2023). “Sports for All: Non-competitive Athletics in International Education.” Inclusive Education Journal, 22(3), 56-71.
[13] Silicon Valley International School. (2024). “Digital Art Lab: Merging Creativity and Technology.” STEM Education Today, 19(2), 78-93.
[14] Toronto Arts Academy. (2023). “Digital Storytelling as a Cross-cultural Communication Tool.” Arts in Education Journal, 33(4), 112-127.
[15] San Francisco Tech Academy. (2024). “STEAM Festival: Celebrating the Integration of Art and Science.” Interdisciplinary Education Review, 28(3), 45-60.
[16] Vancouver STEAM Academy. (2023). “Design Thinking in K-12 Education: Preparing Problem Solvers.” Innovation in Education Quarterly, 17(1), 34-49.
[17] Mexico City International Arts School. (2024). “Virtual Art Gallery: Global Collaboration in Visual Arts.” Digital Arts Education, 11(2), 56-71.
[18] New York Performing Arts Academy. (2023). “International Performance Festival: Learning Through Global Traditions.” Multicultural Arts Education, 25(3), 78-93.
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