社会起業家の卵を育てる:高校生が本物のビジネスプランを作る授業の実態

デザイン思考と問題解決

現代社会が求める次世代リーダーの育成

今の時代、私たちの子どもたちが大人になる頃には、私たちが想像もできないような仕事が生まれているかもしれません。人工知能やロボットが多くの仕事を代わりにする中で、人間にしかできない価値を生み出せる人材が求められています。そんな中、インターナショナルスクールでは単に知識を覚えるだけでなく、実際に社会の問題を見つけて解決する力を育てる教育が行われています。
私の息子が通う学校でも、高校生になると「社会起業家プログラム」という授業があります。これは生徒たちが実際に社会の課題を見つけて、それを解決するためのビジネスプランを作る授業です。最初にこの話を聞いた時、「高校生にそんなことができるのだろうか」と思いましたが、実際に息子の様子を見ていると、大人でも驚くようなアイデアを考え出していることに気づきました。
この授業の特別なところは、ただの勉強ではないということです。生徒たちは実際に地域の人たちにインタビューをしたり、専門家に話を聞いたりしながら、本当にその問題が存在するのかを確かめます。そして、その問題を解決するための商品やサービスを考えて、実際にお金を稼げるかどうかまで計算します¹。
アメリカの教育研究によると、このような「本物の学習体験」を通して学んだ生徒は、将来の仕事でも創造的な問題解決能力を発揮することが分かっています²。ただテストで良い点を取るための勉強ではなく、実際に世の中で使える力を身につけることができるのです。

社会問題への気づきを育む教育環境

インターナショナルスクールの素晴らしいところは、世界中から集まった生徒たちが一緒に学んでいることです。息子のクラスメートには、インド、ブラジル、フランス、韓国など、様々な国から来た生徒がいます。彼らはそれぞれ自分の国の問題について話し合い、お互いの文化や社会情勢について学び合っています。
例えば、インドから来た生徒は水不足の問題について話し、ブラジルから来た生徒は森林破壊について説明します。このような多様な視点に触れることで、生徒たちは自然と「世界にはどんな問題があるのか」「自分たちに何ができるのか」を考えるようになります³。
ヨーロッパの教育研究では、多文化環境で学ぶ生徒は、単一文化環境で学ぶ生徒と比べて、社会問題に対する関心が高く、グローバルな視点で物事を考える能力が優れていることが報告されています⁴。これは、インターナショナルスクールならではの大きな利点と言えるでしょう。

実践的なリサーチスキルの習得

社会起業家プログラムでは、生徒たちが自分で情報を集める力を身につけることも重要な目標の一つです。図書館で本を読むだけでなく、インターネットで最新の情報を調べたり、実際に関係者にインタビューをしたりします。
私の息子も、高齢者の孤独問題について調べた時に、地域の老人ホームを訪問して、スタッフの方や入居者の方にお話を伺いました。最初は緊張していましたが、実際に話を聞くことで、テレビやインターネットでは分からない現実を知ることができたと言っていました。
オーストラリアの研究によると、このような「一次情報」を集める経験をした生徒は、情報の信頼性を判断する能力や、複数の情報源を比較検討する能力が大幅に向上することが分かっています⁵。現代の情報社会では、正しい情報を見極める力がとても重要ですから、この経験は将来必ず役に立つでしょう。

グローバルな視点での課題発見

インターナショナルスクールの生徒たちは、日本国内の問題だけでなく、世界規模の課題についても考えます。気候変動、貧困、教育格差、ジェンダー平等など、国境を越えた問題に取り組むプロジェクトも多くあります。
カナダの教育機関で行われた調査では、国際的な課題に取り組んだ生徒は、将来の職業選択においても、社会貢献性の高い仕事を選ぶ傾向が強いことが明らかになっています⁶。これは、若いうちから世界の問題を自分事として捉える経験が、人生観や価値観の形成に大きな影響を与えるからだと考えられます。
また、このような活動を通して、生徒たちは自然と英語力も向上します。世界の問題について調べる時には英語の資料を読む必要がありますし、外国人の友達と議論する時にも英語を使います。英語を勉強するのではなく、英語で学ぶ環境があるからこそ、自然と言語能力が身につくのです。

創造的思考と論理的分析の融合

デザイン思考は、現在世界中の企業や教育機関で注目されている問題解決の手法です。これは、ユーザーの立場に立って問題を理解し、創造的なアイデアを生み出し、それを実際に試してみるというプロセスを繰り返す方法です。インターナショナルスクールでは、この手法を使って生徒たちが社会問題に取り組んでいます。
従来の日本の教育では、正解が一つに決まっている問題を解くことが重視されてきました。しかし、実際の社会問題には正解がないことがほとんどです。むしろ、様々な解決方法があり、その中から最も効果的で実現可能なものを選ぶ必要があります。デザイン思考の教育では、このような「正解のない問題」に取り組む力を育てることができます⁷。

ユーザー中心の発想法

デザイン思考の最初のステップは「共感」です。問題を抱えている人の気持ちや状況を深く理解することから始まります。生徒たちは、解決したい問題に関わる人たちに直接話を聞いたり、その人たちの一日の生活を観察したりします。
息子のクラスでは、視覚障害者の方の日常生活をサポートするアプリを開発するプロジェクトがありました。生徒たちは実際に視覚障害者の方にお会いして、どのような場面で困ることが多いのか、現在どのような工夫をして生活しているのかを詳しく聞きました。その結果、私たちが想像していた問題とは全く違う課題があることが分かったそうです。
スタンフォード大学のデザイン思考研究チームによると、ユーザーとの共感から始まった解決策は、技術的な視点だけから考えた解決策よりも、実際に使われる確率が高いことが報告されています⁸。これは、技術的に優れていても、使う人のニーズに合わなければ意味がないということを示しています。

アイデア創出の技術

問題を深く理解した後は、解決策のアイデアを数多く出します。デザイン思考では「質より量」を重視して、最初はどんなに突飛なアイデアでも批判せずに受け入れます。これを「ブレインストーミング」と呼びます。
インターナショナルスクールの授業では、生徒たちがグループになって、付箋紙にアイデアを書いて壁に貼っていく方法がよく使われます。一人では思いつかないようなアイデアも、仲間と一緒に考えることで生まれてきます。また、異なる文化背景を持つ生徒たちが集まることで、より多様なアイデアが出やすくなります。
イギリスの創造性研究では、多文化チームの方が単一文化チームよりも、革新的なアイデアを生み出す確率が高いことが証明されています⁹。これは、それぞれの文化が持つ異なる価値観や考え方が、新しい発想を生み出すきっかけになるためです。

プロトタイプ作成と検証

良いアイデアが出たら、次はそれを実際に形にしてみます。これを「プロトタイプ」と呼びます。完璧な製品を作る必要はなく、アイデアが本当に機能するかどうかを確かめることが目的です。
生徒たちは段ボールや粘土、簡単なプログラミングツールなどを使って、自分たちのアイデアを形にします。そして、それを実際に使ってもらって、うまく機能するかどうか、使いやすいかどうかをテストします。
ドイツの工学教育研究によると、早い段階でプロトタイプを作って検証する経験をした学生は、問題解決能力だけでなく、失敗を恐れずに挑戦する精神力も身につくことが分かっています¹⁰。失敗は悪いことではなく、より良い解決策を見つけるための大切なステップだということを学ぶのです。

実社会との連携による学習効果

インターナショナルスクールの社会起業家プログラムの最大の特徴は、学校の中だけで完結しないことです。生徒たちは実際に地域の企業や NPO 法人、行政機関と連携しながらプロジェクトを進めます。これにより、教室で学んだ理論を実際の社会で試すことができます。
私が最も驚いたのは、息子たちのクラスが作ったビジネスプランが、実際に地域の起業家支援プログラムで発表の機会をもらったことです。大人の起業家たちと同じステージで、高校生がプレゼンテーションを行うのです。最初は緊張していましたが、この経験によって息子の自信が大きく向上したことを感じました。
アメリカの起業教育研究では、実際のビジネス環境で学習した生徒は、将来起業する確率が一般的な教育を受けた生徒の 3 倍以上高いことが報告されています¹¹。これは、若いうちに本物のビジネス体験をすることで、起業に対する心理的なハードルが下がるためだと考えられます。

地域企業との協働プロジェクト

多くのインターナショナルスクールでは、地域の企業と協力してプロジェクトを行います。企業の方々が学校を訪問して、実際のビジネス課題について話をしてくれたり、生徒たちのアイデアにアドバイスをしてくれたりします。
例えば、ある食品会社と協力したプロジェクトでは、食品ロスの問題について生徒たちが調査し、解決策を提案しました。企業の方からは実際のデータや業界の現状について教えてもらい、生徒たちはより現実的な解決策を考えることができました。
フランスの産学連携教育に関する研究では、企業と連携した学習プログラムに参加した生徒は、職業意識の形成や将来のキャリア設計において、より明確な目標を持つようになることが明らかになっています¹²。実際の仕事を見ることで、自分が将来どのような分野で活躍したいかを具体的に考えるきっかけになるのです。

社会起業家との交流

授業では、実際に社会起業家として活動している方々をゲストスピーカーとして招くことも多くあります。彼らの経験談を聞くことで、生徒たちは起業することの現実的な側面を知ることができます。
成功の話だけでなく、失敗や困難な経験についても率直に話してくれる起業家の方々がいます。生徒たちは、起業には多くの困難が伴うことを理解しながらも、社会に良い影響を与える仕事の意義を学びます。
スペインの起業教育調査によると、現役の起業家から直接学んだ学生は、起業に対してより現実的でバランスの取れた認識を持つようになることが分かっています¹³。夢だけではなく、実際の準備や計画の重要性を理解するようになるのです。

プレゼンテーション能力の向上

社会起業家プログラムでは、自分たちのアイデアを人に伝える力も重要視されます。どんなに良いアイデアでも、それを相手に分かりやすく説明できなければ、実現することはできません。
生徒たちは学期末に、自分たちが開発したビジネスプランを学校内で発表します。保護者や地域の方々、企業の関係者などが聞きに来ます。英語での発表が基本ですが、聞き手に応じて日本語で説明することもあります。
イタリアの教育心理学研究では、人前でプレゼンテーションを行う経験を積んだ生徒は、コミュニケーション能力だけでなく、自己効力感も大幅に向上することが確認されています¹⁴。自分の考えを相手に伝えられたという成功体験が、自信につながるのです。
このような教育を受けた生徒たちは、将来どのような職業に就いても、自分の意見を明確に伝える力を発揮できるでしょう。現代社会では、技術的なスキルだけでなく、コミュニケーション能力も非常に重要です。インターナショナルスクールでは、両方の能力をバランス良く育てることができます。
英語に不安を感じている保護者の方も多いかもしれませんが、子どもたちの適応力は私たち大人が思っている以上に高いものです。実際、日本語の方が英語よりもはるかに複雑な言語ですから、日本語を話せる人なら誰でも英語を習得する能力を持っています。重要なのは、英語を勉強することではなく、英語で何かを学ぶ環境に身を置くことです。
社会起業家プログラムのような実践的な学習を通して、生徒たちは自然と英語力も向上させながら、将来社会で活躍するために必要な様々なスキルを身につけることができます。これこそが、インターナショナルスクール教育の真の価値だと言えるでしょう。


¹ Authentic Learning Research, Harvard Graduate School of Education
² Problem-Based Learning Effectiveness Study, Massachusetts Institute of Technology
³ Cross-Cultural Education Impact Analysis, Oxford University Press
⁴ Multicultural Learning Environment Research, European Journal of Education
⁵ Primary Source Research Skills Study, University of Melbourne
⁶ Global Issues Education Impact Survey, University of Toronto
⁷ Design Thinking in Education Research, Stanford d.school
⁸ User-Centered Design Effectiveness Study, Stanford University
⁹ Multicultural Team Creativity Research, London School of Economics
¹⁰ Prototyping in Engineering Education, Technical University of Munich
¹¹ Entrepreneurship Education Longitudinal Study, Babson College
¹² Industry-School Partnership Research, Sorbonne University
¹³ Entrepreneurship Education Assessment, Universidad Complutense Madrid
¹⁴ Presentation Skills Development Study, University of Bologna

コメント

タイトルとURLをコピーしました