SDGsをカリキュラム統合する:教科横断的アプローチでの持続可能性教育
今日の世界では、子どもたちが未来の問題解決者として育つために必要な力を身につけることが大切です。特に「SDGs(持続可能な開発目標)」は、世界中の学校で教育の重要な部分となっています。SDGsとは、国際連合(世界の国々が集まって平和や発展について話し合う場所)が2015年に決めた、2030年までに世界が目指す17の目標のことです。
私の息子が通うインターナショナルスクールでは、SDGsが日々の学びの中に自然に組み込まれています。このような学校では、英語を「学ぶ」のではなく、英語「で」学ぶ環境があります。実は、日本語の方が英語より複雑な言語だと言われていて、日本語を話せる人なら誰でも英語を習得する能力を持っているのです。大切なのは適切な環境と教え方です。
この記事では、インターナショナルスクールでのSDGs教育の実践方法について、教科をまたいだ(教科横断的)アプローチを中心に紹介します。
持続可能性を中心とした学びの設計
インターナショナルスクールでは、SDGsを別の授業として教えるのではなく、すべての教科の中にその考え方を取り入れています。このような「カリキュラム統合」は、持続可能性の考え方を子どもたちの当たり前の思考にするために効果的です1。
全校的なSDGs取り組み方針
効果的なSDGs教育には、学校全体での取り組みが大切です。息子の学校では、校長先生から用務員さんまで、すべての人がSDGsの理念を理解し、日々の活動に生かしています。例えば、給食では食べ物を残さない工夫、教室では電気やエアコンの使い方の見直しなど、小さなことから始めています2。
フィンランドのヘルシンキにある「グリーンスクール」という学校では、校舎自体が教材となっています。太陽光パネルや雨水利用システムが設置され、子どもたちは実際に使うエネルギーや水の量を計測し、理科や数学の授業でそのデータを活用しています3。このような実践的な取り組みは、子どもたちの理解を深めるのに役立っています。
教科ごとのSDGs目標との結びつけ
各教科でSDGsとどのように結びつけるか、具体例を見てみましょう:
- 算数・数学:世界の貧困や不平等に関する統計データを分析したり、グラフ化したりします
- 理科:気候変動の仕組みや生物多様性について学びます
- 社会:さまざまな国の文化や課題について調べます
- 国語・英語:環境や社会問題をテーマにした物語を読んだり、意見文を書いたりします
息子のクラスでは、6年生の時に「水の循環と保全」というテーマで、理科、社会、算数、英語の授業が連携していました。理科では水の循環を学び、社会では世界の水問題について調べ、算数では家庭での水の使用量を計算し、英語ではポスターや発表資料を作りました4。
年齢に合わせた教材と活動
SDGsの内容は複雑ですが、子どもの年齢や発達段階に合わせた教え方があります。小さな子どもには、物語や遊びを通じて「みんなで助け合うこと」や「自然を大切にすること」を教えます。年齢が上がるにつれて、より具体的な問題や解決策について学んでいきます5。
スウェーデンのストックホルムにある「フューチャースクール」では、就学前の子どもたちに「SDGsごっこ遊び」を取り入れています。例えば「海のきれいな町をつくろう」というテーマで、プラスチックごみ問題をすごろくゲームにしたり、リサイクル素材で海の生き物を作ったりしています6。
実践的なプロジェクト学習の展開
SDGsの理解を深めるには、実際に手を動かし、自分たちで考えるプロジェクト学習が効果的です。インターナショナルスクールでは、こうした学習方法が積極的に取り入れられています。
地域社会と連携したアクション
学校の中だけでなく、地域社会と連携した活動を行うことで、子どもたちは自分たちの行動が実際に社会に影響を与えることを学びます。例えば、地元の川や海岸の清掃活動、お年寄りとの交流会、フードバンクへの食料寄付など、実際に社会貢献する経験が大切です7。
ドイツのミュンヘンにある「グローバル・アクション・アカデミー」では、11歳から13歳の子どもたちが地元のお年寄り施設と連携し、「デジタルヘルパー」として高齢者にインターネットやスマートフォンの使い方を教える活動を行っています。これはSDGs目標10「人や国の不平等をなくそう」と目標4「質の高い教育をみんなに」の両方に関わる活動です8。
問題解決型の協働プロジェクト
子どもたちが自分たちで課題を見つけ、解決策を考え、実行するプロジェクトは、SDGs教育の核心部分です。このような活動では、チームで協力する力、考える力、行動する力が育ちます。
息子の学校では、毎年「チェンジメーカーズ・ウィーク」という一週間があります。この期間中、子どもたちは自分たちが解決したい問題を選び、チームでプロジェクトを進めます。息子のチームは去年、学校の食堂から出る食品廃棄物を減らすための提案を行い、実際に給食の注文システムを見直すきっかけになりました9。
デジタル技術を活用した国際交流
現代のインターナショナルスクールでは、インターネットを使って世界中の学校と交流することができます。こうした国際交流により、子どもたちは異なる国や地域の状況を直接知り、グローバルな視点を養うことができます。
カナダのバンクーバーにある学校と息子の学級が行った「バーチャル交流プロジェクト」では、お互いの国の環境問題について調べ、オンラインで発表し合いました。日本では海洋プラスチック問題、カナダでは森林保全について学び、共通点や違いを話し合いました。子どもたちは同じ地球に住む仲間として、共に解決策を考える大切さを実感していました10。
評価と振り返りの革新的アプローチ
SDGsのような複雑なテーマを学ぶ際、従来のテストだけでは子どもたちの理解度や成長を正確に測ることができません。インターナショナルスクールでは、より多面的な評価方法が採用されています。
成長過程を重視するポートフォリオ評価
ポートフォリオ評価とは、子どもたちの作品や活動の記録を時間をかけて集め、その成長過程を見る評価方法です。テストの点数だけでなく、子どもがどのように考え、どう行動したかを総合的に評価します11。
オーストラリアのシドニーにある「プログレス・アカデミー」では、子どもたち一人ひとりが「SDGsジャーニー・ポートフォリオ」を持っています。このデジタルポートフォリオには、プロジェクトの記録や振り返りの文章、写真やビデオが含まれています。学期ごとに子ども自身が自分の成長を振り返り、次の目標を設定します12。
自己評価と相互評価の取り入れ
持続可能な社会づくりには、自分の行動を振り返り、改善していく力が必要です。インターナショナルスクールでは、子ども自身が自分の学びを評価したり、友だち同士で評価し合ったりする機会が多くあります。
ニュージーランドのオークランドにある「リフレクティブ・ラーニング・スクール」では、プロジェクト終了後に「3S評価」という方法を使っています。これは「Start(始めるべきこと)」「Stop(やめるべきこと)」「Continue(続けるべきこと)」の3つの観点から自分たちの活動を振り返るものです。子どもたちは互いの意見を聞き合い、次のプロジェクトに生かしています13。
実社会での影響を測る長期的評価
SDGs教育の真の成果は、子どもたちが将来にわたって持続可能な社会づくりに貢献できるかどうかです。長期的な視点で子どもたちの成長を見守ることが大切です。
イギリスのロンドンにある「フューチャー・ジェネレーション・アカデミー」では、卒業生を対象に5年ごとの追跡調査を行っています。学校で学んだSDGsの考え方が実際の職業選択や日常生活にどう影響しているかを調査し、教育プログラムの改善に役立てています14。
多様な視点からのSDGs理解の促進
SDGsは世界共通の目標ですが、それぞれの地域や文化によって、問題の現れ方や解決方法は異なります。インターナショナルスクールでは、さまざまな国や文化の視点から持続可能性について考える機会を大切にしています。
異文化間の対話と理解の促進
異なる文化や価値観を持つ人々との対話を通じて、子どもたちは多様な考え方を学び、より包括的な解決策を考えることができるようになります。
文化的背景に配慮したSDGs教育
それぞれの文化や地域によって、持続可能性に関する考え方や優先課題は異なります。例えば、水不足が深刻な地域では水の保全が最重要課題かもしれませんし、都市部では大気汚染や交通問題が重要かもしれません。インターナショナルスクールでは、このような多様な背景を尊重した教育が行われています15。
シンガポールの「グローバル・パースペクティブズ・スクール」では、「マイ・SDGs・マップ」というプロジェクトを実施しています。子どもたちは自分のルーツとなる国や地域のSDGs達成状況を調べ、地図上に表示します。クラス全体で見ると、世界各地の状況や課題の違いが一目でわかり、なぜ同じ目標でも地域によってアプローチが異なるのかを理解することができます16。
先住民族の知恵と持続可能性
世界の先住民族(その土地に昔から住んでいた人々)は、何世代にもわたって自然と調和して生きる知恵を持っています。こうした伝統的な知恵は、現代の持続可能性の課題解決にも役立つものです。
ニュージーランドの学校では、マオリ族(ニュージーランドの先住民族)の「カイティアキタンガ」という考え方を取り入れています。カイティアキタンガとは「守り手」という意味で、自然資源を次世代のために守り、大切にする責任を表す概念です。子どもたちはこの考え方を学び、地元の環境保全活動に生かしています17。
言語の壁を超えた共同学習
インターナショナルスクールの強みは、さまざまな言語や文化的背景を持つ子どもたちが一緒に学ぶ環境です。言葉の壁があっても、共通の目標に向かって協力することで、互いに学び合うことができます。
スペインのバルセロナにある「多言語エコスクール」では、新しく入学してきた子どもが英語をまだ十分に話せなくても、SDGsプロジェクトに参加できるよう工夫しています。文字だけでなく、絵や写真、動画、身体表現などを使って意思疎通を図り、言語の壁を超えた協力を促しています18。
ローカルとグローバルの連携
SDGsの課題は地球規模のものですが、解決策は地域の状況に合わせて考える必要があります。「地球規模で考え、地域で行動する」という考え方が大切です。
地域の課題と世界的問題のつながり
身近な地域の問題が、実は世界的な課題とつながっていることを理解することで、子どもたちは自分たちの行動の意味を深く理解することができます。
フランスのパリにある「コネクト・スクール」では、「マイ・ネイバーフッド・マイ・プラネット」というプロジェクトを行っています。子どもたちは自分の住む地域の環境問題(例:ごみの分別、公園の緑化、地元の川の水質など)を調査し、それが地球全体の環境にどうつながるかを学びます。この活動を通じて、日常の小さな行動が大きな変化につながることを実感しています19。
地域資源を活用した持続可能な実践
持続可能な社会づくりには、その地域ならではの資源や強みを活かすことが大切です。インターナショナルスクールでは、学校のある地域の特性を生かした学習活動が行われています。
イタリアのミラノにある「ローカル・グローバル・アカデミー」は、地元の農家と連携した「スクール・ガーデン・プロジェクト」を実施しています。子どもたちは伝統的な農法を学び、学校の菜園で野菜を育てます。収穫した野菜は給食で使用したり、地域の市場で販売したりします。この活動はSDGs目標2「飢餓をゼロに」と目標12「つくる責任 つかう責任」に関連しています20。
世界的なネットワークへの参加
インターナショナルスクールの多くは、世界的な教育ネットワークに参加しています。こうしたネットワークを通じて、世界中の学校と情報や実践例を共有し、より効果的なSDGs教育を実現しています。
「エコスクール・ネットワーク」は世界70か国以上の学校が参加する国際的なプログラムで、環境教育と持続可能性に関する取り組みを共有しています。参加校は共通の基準に基づいて活動し、成果を認定される「グリーンフラッグ」制度があります。このような国際的な認定を受けることで、子どもたちは世界的な動きの一部として自分たちの活動を位置づけることができます21。
将来を見据えた技能開発
SDGsの目標達成には、次世代を担う子どもたちが必要な知識とスキルを身につけることが不可欠です。インターナショナルスクールでは、未来の課題解決者として必要な力を育てる教育が行われています。
批判的思考と創造的問題解決
持続可能性の課題は複雑で、単純な解決策がないことが多いです。そのため、さまざまな角度から問題を分析し、創造的な解決策を考える力が必要です。
「批判的思考」とは、情報を鵜呑みにせず、証拠に基づいて判断する思考法です。「創造的問題解決」とは、これまでにない新しい解決方法を考え出す力です。インターナショナルスクールでは、こうした思考力を育てるために、オープンエンドな問い(一つの正解がない問い)を多く取り入れた授業が行われています22。
デンマークのコペンハーゲンにある「イノベーション・スクール」では、「SDGsチャレンジ」と呼ばれる活動があります。子どもたちには実際の企業や自治体が直面している持続可能性の課題が提示され、チームでその解決策を考えます。最終的には専門家の前でプレゼンテーションを行い、フィードバックをもらいます。こうした本物の課題に取り組むことで、実践的な問題解決能力が育ちます23。
デジタルリテラシーと情報評価
インターネット上には膨大な情報があふれていますが、その中から信頼できる情報を見分け、適切に活用する力が必要です。特にSDGsのような複雑な課題では、正確な情報に基づいた判断が重要です。
「デジタルリテラシー」とは、デジタル技術や情報を適切に使いこなす力のことです。インターナショナルスクールでは、ウェブサイトの信頼性を評価する方法、複数の情報源を比較する習慣、オンライン上での責任ある行動などを教えています24。
韓国のソウルにある「デジタル・シチズンシップ・スクール」では、高学年の生徒たちが「ファクトチェッカーズ」というクラブ活動を行っています。彼らはSDGsに関するニュースや情報を収集し、その正確性や信頼性を検証します。その結果を学校のニュースレターやウェブサイトで発信することで、他の子どもたちの情報リテラシーも高めています25。
感情知性と協働能力
持続可能な社会づくりには、人と人とのつながりや協力が欠かせません。自分の感情を理解し、他者と効果的にコミュニケーションをとる力が重要です。
「感情知性」とは、自分と他者の感情を理解し、適切に対応する能力のことです。「協働能力」とは、異なる考えや能力を持つ人々と一緒に働き、共通の目標を達成する力です。インターナショナルスクールでは、グループ活動やプロジェクト学習を通じて、これらの力を育てています26。
ノルウェーのオスロにある「ピースフル・スクール」では、「サークル・タイム」という活動を毎日行っています。子どもたちは輪になって座り、その日の気持ちや考えを共有します。また、意見の対立があった場合の解決法や、効果的な協力の仕方などについても話し合います。こうした活動を通じて、子どもたちは互いを尊重し、協力する態度を身につけています27。
学校全体での持続可能な実践
SDGs教育は教室の中だけでなく、学校生活全体を通じて行われることが理想的です。子どもたちが日々の学校生活の中で持続可能性を実践することで、より深い理解と行動力が育まれます。
学校施設とリソースの持続可能な利用
学校自体が持続可能性のモデルとなることで、子どもたちは実際の取り組みを目の当たりにし、自分たちも参加する意識が高まります。
エコフレンドリーな校舎と設備
世界中のインターナショナルスクールでは、校舎や設備を環境に配慮したものにする取り組みが進んでいます。太陽光発電や雨水利用システム、省エネ設計の建物など、様々な工夫が施されています28。
アメリカのシアトルにある「グリーン・フューチャー・アカデミー」の校舎は、LEED(環境に配慮した建物の国際的な認証制度)のプラチナ認証を受けています。屋上には太陽光パネルと菜園があり、雨水を集めてトイレの水に再利用するシステムがあります。校内の電気や水の使用量がリアルタイムで表示される「エネルギーダッシュボード」があり、子どもたちは自分たちの活動が資源消費にどう影響するかを学んでいます29。
廃棄物削減と資源の有効活用
学校から出るごみを減らし、資源を大切に使う取り組みは、子どもたちが日常的に参加できる持続可能な実践です。
オーストラリアのブリスベンにある「エコスマート・スクール」では、「ゼロ・ウェイスト・チャレンジ」を実施しています。すべての教室にリサイクル、コンポスト(生ごみを堆肥にすること)、再利用のための分別ボックスがあり、子どもたちは自分たちでごみの分別と管理を行います。また、使い捨て容器の使用を減らすため、すべての子どもが再利用可能な水筒と弁当箱を使用しています30。
学校給食を通じた食育
私たちが毎日食べる食事は、健康だけでなく環境にも大きな影響を与えます。学校給食を通じて、持続可能な食のあり方を学ぶことができます。
イタリアのボローニャにある「スローフード・スクール」では、地元の有機農家から仕入れた食材を使った給食を提供しています。子どもたちは給食の前に、その日の食材がどこから来たのか、どのように育てられたのかについて学びます。また、学校の菜園で自分たちで育てた野菜も給食に使われます。食べ残しはコンポストにして菜園の肥料にし、食の循環を体験的に学んでいます31。
学校運営への生徒参加
持続可能な社会づくりには、市民一人ひとりの参加が欠かせません。学校運営に子どもたちが参加することで、自分たちの意見が社会を変える力になることを実感できます。
持続可能性委員会とエコリーダー
多くのインターナショナルスクールでは、子どもたち自身が学校の持続可能性の取り組みを計画・実行する委員会が設置されています。
メキシコのメキシコシティにある「グリーン・リーダーシップ・スクール」では、各学年から選ばれた代表者で構成される「エコカウンシル」があります。彼らは定期的に会議を開き、学校の環境への取り組みを評価し、新しい企画を提案します。例えば、使用済み教科書のリサイクルシステムや、校内のゴミ削減キャンペーンなどを実施しています32。
民主的な意思決定プロセス
持続可能な社会づくりには、多様な意見を尊重し、みんなで話し合って決める民主的なプロセスが大切です。インターナショナルスクールでは、子どもたちが民主的な意思決定を経験する機会が多くあります。
デンマークのオーフスにある「デモクラティック・スクール」では、毎週「スクール・ミーティング」が開かれます。ここでは子どもたちも教職員も対等な立場で学校の様々な問題について話し合い、投票で決定します。例えば、校庭の使い方、学校行事の内容、新しい校則の制定などが議題になります。このような経験を通じて、子どもたちは自分の意見を表明する力と、異なる意見を尊重する態度を身につけています33。
持続可能な学校評価
学校の持続可能性への取り組みを定期的に評価し、改善していくことが大切です。その際、子どもたちも評価に参加することで、より実効性のある改善につながります。
「グリーンスクール認証」は、世界中の学校が参加できる持続可能性の評価システムです。このプログラムでは、エネルギー、水、廃棄物、生物多様性、健康、カリキュラムなど10の分野について学校の取り組みを評価します。評価は子どもたちも参加して行われ、改善点を見つけて次の行動計画を立てます34。
家庭・地域社会との連携
持続可能性教育は学校だけでなく、家庭や地域社会と連携して行うことで、より大きな効果を発揮します。子どもたちが学校で学んだことを家庭や地域で実践し、逆に地域の知恵を学校に持ち込むことで、学びがより豊かになります。
保護者の参加と啓発
子どもたちが家庭でも持続可能な生活習慣を実践するためには、保護者の理解と協力が欠かせません。インターナショナルスクールでは、保護者向けの情報提供や参加型の活動が積極的に行われています。
インドのムンバイにある「コミュニティ・スクール」では、月に一度「サステナブル・サタデー」という保護者参加型のワークショップを開催しています。エコ洗剤の作り方、家庭でのエネルギー節約術、食品ロス削減のコツなど、日常生活で実践できる持続可能な取り組みを紹介しています。また、子どもたちがSDGsプロジェクトの成果を発表する機会もあり、家庭での会話や実践につながっています35。
地域企業や団体とのパートナーシップ
持続可能な社会づくりには、学校だけでなく企業や団体など様々なステークホルダー(関係者)の協力が必要です。インターナショナルスクールでは、地域の企業や団体と連携した教育活動が行われています。
オランダのアムステルダムにある「コネクト・スクール」では、地元の企業や団体と「SDGsパートナーシッププログラム」を実施しています。例えば、リサイクル企業と連携して廃棄物管理を学び、再生可能エネルギー会社と協力して太陽光発電プロジェクトを行い、地元のNGO(非政府組織)と共に難民支援活動を行っています。こうした本物の社会との関わりを通じて、子どもたちは実社会での持続可能性の取り組みを学んでいます36。
地域全体を巻き込むイベントの開催
学校が中心となって地域全体を巻き込むイベントを開催することで、持続可能性の意識を広く伝えることができます。
スペインのバレンシアにある「コミュニティ・アクション・スクール」では、年に一度「サステナビリティ・フェア」を開催しています。子どもたちが企画・運営するこのイベントでは、SDGsに関する展示や体験コーナー、エコ製品の販売、専門家による講演会などが行われます。地域の人々が多数参加し、持続可能な生活についての情報交換や交流の場となっています37。
教育者の専門的成長と支援
SDGsを効果的に教えるためには、教育者自身が持続可能性について深く理解し、適切な教え方を知っている必要があります。インターナショナルスクールでは、教員の専門性向上のための様々な取り組みが行われています。
教員研修と専門性開発
教育の質は教員の質に大きく依存します。SDGsという複雑なテーマを教えるためには、教員が継続的に学び、スキルを高めることが大切です。
持続可能性教育のための研修プログラム
インターナショナルスクールでは、SDGs教育に特化した教員研修が定期的に行われています。これにより、最新の知識や教授法を学ぶことができます。
「UNESCO(国際連合教育科学文化機関)」は、「持続可能な開発のための教育(ESD)」に関する教員研修プログラムを世界中で実施しています。このプログラムでは、SDGsの背景知識、教科横断的な教え方、プロジェクト学習の手法などを学びます。多くのインターナショナルスクールの教員がこうした国際的な研修に参加し、自校での実践に生かしています38。
教員間の協働と知識共有
教員同士が協力し、アイデアや経験を共有することで、より質の高いSDGs教育が実現します。インターナショナルスクールでは、教員のチームワークを重視した体制が整えられています。
カナダのトロントにある「コラボレーティブ・ラーニング・スクール」では、教員が週に一度「プロフェッショナル・ラーニング・コミュニティ(PLC)」と呼ばれる会議を開きます。ここでは、SDGsを様々な教科でどう教えるか、成功事例や課題を共有し、お互いの授業を参観して意見交換を行います。こうした協働的な取り組みにより、学校全体でのSDGs教育の質が向上しています39。
最新の研究と実践のバランス
効果的なSDGs教育のためには、理論と実践のバランスが大切です。最新の研究成果を取り入れながらも、実際の教室で使える実践的なアプローチを開発することが求められます。
「国際バカロレア(IB)」は、世界的な教育プログラムを提供する団体で、多くのインターナショナルスクールがIBプログラムを採用しています。IBは定期的に「教育者ネットワーク」を開催し、教員が研究者や実践者と交流する機会を設けています。こうした場での学びを通じて、教員は理論に裏付けられた効果的な教育方法を身につけることができます40。
教育リソースの開発と活用
質の高いSDGs教育を行うためには、適切な教材やリソースが必要です。インターナショナルスクールでは、様々な教育リソースが開発・活用されています。
デジタルプラットフォームとオープン教材
インターネットの発達により、世界中の教育リソースにアクセスできるようになりました。特にオープン教育リソース(OER)と呼ばれる、誰でも自由に使える教材の活用が進んでいます。
「SDGs教育者プラットフォーム」は、世界中の教育者がSDGsに関する教材やアイデアを共有するオンラインコミュニティです。授業計画、プロジェクト例、評価方法など、様々なリソースが提供されています。多くのインターナショナルスクールの教員がこのプラットフォームを活用し、自分の授業に役立てています41。
地域の文脈に合わせた教材開発
SDGsは世界共通の目標ですが、教え方は地域の状況や文化に合わせる必要があります。各学校や地域の特性を生かした独自の教材開発が重要です。
ブラジルのサンパウロにある「ローカル・グローバル・スクール」では、教員チームが「地域SDGs教材集」を作成しています。これは世界的なSDGsの枠組みを基に、地元の事例や課題、文化的背景を取り入れた教材です。例えば、地元の川の水質問題をケーススタディとして取り上げ、科学、社会、数学などの教科横断的な学習を促す教材が含まれています42。
アセスメントツールの革新
SDGsのような複合的な学びを評価するためには、従来のテストだけでは不十分です。インターナショナルスクールでは、多面的な評価方法が開発されています。
「SDGsラーニング・アセスメント・フレームワーク」は、知識、スキル、態度・価値観の3つの側面からSDGsの学びを評価するツールです。このフレームワークを使うことで、子どもたちの成長を多角的に評価することができます。例えば、知識面では持続可能性の概念理解、スキル面では問題解決能力、態度面では環境や社会問題への関心と行動などが評価されます43。
持続可能性リーダーシップの育成
学校全体でSDGs教育を推進するためには、リーダーシップが重要です。校長や管理職だけでなく、教員や子どもたちの中からも持続可能性のリーダーを育てることが大切です。
校長・管理職のビジョン構築
学校の持続可能性への取り組みを成功させるためには、校長や管理職が明確なビジョンを持ち、学校全体に共有することが大切です。
「グリーン・スクール・リーダーシップ・プログラム」は、学校管理職向けの研修プログラムで、持続可能な学校づくりのためのリーダーシップスキルを育成します。参加者は自校の持続可能性の現状を分析し、改善計画を立て、実行するためのスキルを学びます。このプログラムを修了した校長たちは、自校でのSDGs教育を効果的に推進しています44。
教員のリーダーシップ能力開発
持続可能性教育を学校全体に広げるためには、管理職だけでなく、教員の中からもリーダーが育つことが重要です。
「SDGsティーチャー・チャンピオン」プログラムは、各学校から選ばれた教員がSDGs教育のリーダーとして育成されるプログラムです。参加者は専門的な研修を受け、自校での実践を行いながら、他の教員に知識やスキルを広める役割を担います。このようなピア・リーダーシップ(同僚によるリーダーシップ)により、持続可能性教育の取り組みが学校全体に広がっています45。
システム思考と変革的リーダーシップ
持続可能性の課題は複雑で相互に関連しているため、全体を見渡す「システム思考」と、従来の枠組みを変える「変革的リーダーシップ」が必要です。
「システム思考」とは、ものごとを個別の要素だけでなく、それらの関係性や全体像から理解する考え方です。「変革的リーダーシップ」とは、現状に満足せず、より良い未来に向けて変化を促すリーダーシップのスタイルです。
オーストリアのウィーンにある「フューチャー・リーダーズ・アカデミー」では、教員向けに「システム思考と変革的リーダーシップ」のワークショップを定期的に開催しています。参加者は複雑な持続可能性の課題をシステム思考で分析し、学校や地域社会の変革を促すプロジェクトを計画・実行します。このような取り組みにより、教員は単なる知識の伝達者ではなく、持続可能な社会づくりの変革者としての役割を果たしています46。
まとめ
この記事では、インターナショナルスクールにおけるSDGsの教科横断的アプローチについて紹介しました。SDGsを別の授業としてではなく、すべての教科や学校生活全体に統合することで、子どもたちは持続可能性についての深い理解と実践力を身につけることができます。
多様な視点からSDGsを理解し、地域と世界のつながりを意識しながら、未来に必要なスキルを育む教育は、これからの時代に不可欠です。また、学校自体が持続可能な実践のモデルとなり、家庭や地域と連携することで、その効果はさらに高まります。
教育者の専門的成長と適切な支援があれば、すべての学校でこのようなSDGs教育を実現することができます。私たちの子どもたちが、持続可能な未来の創り手として育つよう、教育の在り方を見直していくことが大切です。
私の息子が通うインターナショナルスクールでの経験から、英語「で」学ぶ環境の中で、SDGsのような複雑なテーマも自然に身につけていく子どもたちの力に、いつも驚かされます。言語の壁を心配するよりも、適切な環境と教え方があれば、子どもたちは驚くべき可能性を発揮するのです。
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