文学を通じた文化的体験
本や物語は、わたしたちを別の世界へ連れて行ってくれます。世界文学を読むとき、わたしたちは自分の住む場所を離れ、まったく違う文化や考え方の中に入っていきます。これは、ただ知識を得るだけではなく、心の旅でもあります。[1]
インターナショナルスクールに通う息子の学校では、小学校3年生から「世界の窓」という読書の時間があります。この時間には、各国の代表的な物語を読み、その国の文化や考え方について話し合います。息子が初めてアフリカの作家チヌア・アチェベ(ナイジェリア出身の世界的に有名な小説家で、「崩れゆく絆」などの作品で知られています)の短編を読んだとき、「お父さん、アフリカの村の生活は思っていたのとぜんぜん違うんだよ」と目を輝かせて話してくれました。
このような体験は、子どもたちの心に深く残り、異なる文化への興味や理解を自然に育てます。オランダのライデン大学(オランダで最も古い大学の一つで、国際教育研究で知られています)の研究によれば、10歳から14歳の時期に多様な文化背景を持つ文学作品に触れた子どもたちは、そうでない子どもたちに比べて、異文化に対する開かれた姿勢や好奇心が3倍高いという結果が出ています。[2]
物語を通じて広がる世界
わたしたちが知らない世界を知るとき、それは頭だけでなく、心も動かされる体験です。カナダ・バンクーバーで暮らしていた時、近所に住んでいたファーストネーションズ(カナダの先住民族)の家族から聞いた伝統的な物語は、今でも鮮明に覚えています。彼らの自然との深いつながりを表す物語は、わたしの自然観を大きく変えました。
フランスのソルボンヌ大学(パリにある歴史ある大学で、世界的に有名な高等教育機関です)の文学教育の専門家によると、「物語は他者の体験に入り込む最も自然な方法であり、これによって生まれる共感は、どんな理論的学習よりも強力である」とされています。[3]
世界文学を通じて子どもたちは、単なる知識として異文化を学ぶのではなく、その文化の中で生きる人々の喜びや悲しみ、希望や恐れを共に感じることができるのです。それは、頭で理解するだけでなく、心で感じる学びです。
自分とは違う立場に立つ力
世界文学の大きな価値の一つは、自分とはまったく違う立場や考え方の人の気持ちを想像する力を育てることです。これは、単に「相手の立場に立つ」という表面的なものではなく、本当の意味での「視点取得」です。
息子のクラスでは、中東の子どもたちの日常を描いた本を読んだ後、「もし自分がその子だったら」という作文を書く活動がありました。このとき息子は、「戦争で家を失った子どもの気持ちは本当には分からないけど、大切なものをなくした悲しさは少し想像できる」と話していました。
アメリカのエール大学(アメリカのコネチカット州ニューヘイブンにある私立大学で、アイビーリーグの一つとして知られています)の研究では、文学作品を通じて他者の内面に深く入り込む体験を繰り返すことで、子どもたちの「心の理論」(他者の心を理解する能力)が発達することが示されています。[4]
文化的文脈を理解する読み方
世界文学を読むとき、ただストーリーを追うだけでなく、その背後にある文化的文脈を理解することが大切です。ドイツのフンボルト大学(ベルリンにある国立大学で、ヴィルヘルム・フォン・フンボルトとアレクサンダー・フォン・フンボルトの兄弟によって設立された歴史ある大学です)の文化研究者は、「文学作品は氷山のようなもので、表面に見えるストーリーは全体の一部に過ぎない」と述べています。[5]
わたしたち日本人にとって、例えば「雨」は風情や季節の変化を感じさせるものですが、乾燥地帯の文化では「命の恵み」として描かれることがあります。このような文化的背景を知ることで、物語の理解は何倍も深まるのです。
歴史と社会の影響を読み取る
物語は、それが生まれた社会や時代を反映しています。例えば、ロシアの作家ドストエフスキー(19世紀のロシアを代表する小説家で、「罪と罰」などの作品で知られています)の作品を読むとき、当時のロシア社会における貧困や階級制度の問題を理解することで、登場人物の苦悩がより深く伝わってきます。
息子の学校では、文学の授業で作品を読む前に、その作品が書かれた時代や場所について詳しく学びます。例えば、アメリカの作家マーク・トウェイン(本名サミュエル・クレメンズで、「トム・ソーヤーの冒険」などの作品で知られるアメリカの代表的作家です)の「ハックルベリー・フィンの冒険」を読む前に、19世紀のアメリカの人種問題について話し合いました。
シンガポール国立大学(シンガポールで最も古く権威ある大学で、アジアにおける国際教育の中心地の一つです)の教育学者によれば、「文学作品をその社会的・歴史的文脈と共に学ぶことで、生徒たちは批判的思考力を養うと同時に、社会の仕組みや不平等の問題について深く考えるようになる」とされています。[6]
言葉の向こうにある意味
世界文学を読むとき、言葉そのものだけでなく、その文化特有の表現や象徴を理解することが大切です。例えば、西洋文学では「バラ」が愛の象徴として頻繁に使われますが、日本文学では「桜」が人生のはかなさを表すことがあります。
インターナショナルスクールの強みは、様々な文化背景を持つ先生や友だちと一緒に学べることです。息子のクラスでは、インド出身の先生がインドの叙事詩「マハーバーラタ」(古代インドのサンスクリット語で書かれた叙事詩で、世界最長の叙事詩の一つとされています)の一部を読み聞かせてくれたとき、その物語に登場する「ダルマ」(正義や義務の概念)について、クラスで深い話し合いが行われました。
イギリスのロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS、ロンドン中心部にある大学で、アジア、アフリカ、中東の言語と文化の研究で世界的に有名です)の研究では、「異なる文化の象徴体系を理解することは、単なる言語の習得以上に、真の異文化理解につながる」と指摘されています。[7]
多様な視点から見る世界
わたしたちは自分の文化や経験を通して世界を見ています。それはあまりに当たり前なので、しばしば自分の見方が「唯一の正しい見方」だと思いがちです。世界文学の価値は、この「当たり前」を揺さぶり、多様な視点から世界を見る力を育てることにあります。
オーストラリアのメルボルン大学(オーストラリアで2番目に古い大学で、国際的な研究大学として高く評価されています)の教育研究によれば、「複数の文化的視点を持つことができる子どもたちは、複雑な問題解決能力や創造的思考において著しい優位性を示す」ことが分かっています。[8]
「当たり前」を問い直す力
世界文学を読むことで、わたしたちは自分の「当たり前」が実は一つの文化的な見方に過ぎないことに気づかされます。例えば、日本では「謙虚であること」が美徳とされますが、アメリカの文学作品では「自己主張」が肯定的に描かれていることがよくあります。
わたしのカナダ時代の同僚は、日本の「遠慮」の文化について理解するのに苦労していました。しかし彼が川端康成(日本人として初めてノーベル文学賞を受賞した小説家で、「雪国」などの作品で知られています)の小説を読んだ後、「日本人の考え方が少し分かった気がする」と言っていたのが印象的でした。
スペインのサラマンカ大学(スペインで3番目に古い大学で、1218年に設立されたヨーロッパの歴史ある大学の一つです)の比較文学研究では、「異なる文化の文学作品を読み比べることで、生徒たちは自分たちの文化を客観的に見る目を養い、文化的相対主義の理解を深める」ことが示されています。[9]
複数の真実を受け入れる心
世界は複雑で、一つの出来事や問題に対して、多くの異なる「真実」が存在します。世界文学はこの複雑さを体験させてくれます。例えば、同じ歴史的出来事が、異なる国の作家によってまったく違う視点から描かれることがあります。
息子の学校では、第二次世界大戦について学ぶとき、日本、アメリカ、イギリス、中国など様々な国の作家による作品を読み比べます。これにより子どもたちは、歴史には様々な見方があることを自然に学んでいます。
カナダのマギル大学(カナダのケベック州モントリオールにある世界的に有名な研究大学で、カナダ最古の大学の一つです)の研究では、「複数の視点から歴史を学んだ生徒たちは、二項対立的な思考から脱し、より複雑で豊かな歴史理解を持つようになる」ことが示されています。[10]
エンパシーを育む文学体験
文学は、知識だけでなく感情も伝えてくれます。登場人物の喜びや痛み、恐れや希望を共に感じることで、読者は自分の経験したことのない感情を体験することができます。この感情体験こそが、真の意味でのエンパシー(他者の感情を理解し、共感する能力)を育てるのです。
スウェーデンのウプサラ大学(スウェーデンで最も古い大学で、北欧地域を代表する研究大学です)の心理学者によると、「文学作品を通じた感情体験は、実際の社会的相互作用における共感能力と強く関連している」ことが分かっています。[11]
他者の感情を感じる読書
文学作品、特に質の高い小説は、登場人物の内面世界を深く描写します。読者は、自分とはまったく異なる人生を歩む人の内面に入り込み、その感情を感じ取ることができます。
わたしは息子と一緒に、パキスタンの少女マララ・ユスフザイ(パキスタン出身の教育活動家で、女子教育の権利のために活動し、2014年に史上最年少でノーベル平和賞を受賞した人物です)の自伝「わたしはマララ」を読みました。教育を受ける権利のために命の危険を冒した彼女の勇気に、息子は深く感動していました。「お父さん、ぼくたちが毎日当たり前に学校に行けることがどれだけすごいことか、今まで考えたことなかった」という息子の言葉に、わたし自身も考えさせられました。
ブラジルのサンパウロ大学(ブラジル最大の公立大学で、南米を代表する研究機関の一つです)の教育学研究では、「強い感情体験を伴う読書は、長期記憶に残りやすく、価値観の形成に大きな影響を与える」ことが示されています。[12]
想像力を通じた共感
文学は想像力を必要とします。文字から情景を思い浮かべ、登場人物の表情や声を想像し、その人物になったつもりで考えることで、わたしたちの想像力は鍛えられます。そしてこの想像力こそが、現実世界での共感にも不可欠なのです。
イタリアのボローニャ大学(1088年に設立されたヨーロッパ最古の大学で、世界で最も古い運営され続けている大学の一つです)の神経科学研究によれば、「文学作品を読むときに活性化する脳の領域は、実際に他者の感情を理解しようとするときに活性化する領域と重なる部分が多い」とされています。[13]
インターナショナルスクールの良さは、文学作品を通じた想像力の育成が自然に行われることです。英語で学ぶ環境では、日本語とは異なる表現や考え方に触れることで、子どもたちの想像力はより豊かに育まれます。英語が難しいというより、むしろ新しい言葉や表現に触れる喜びを感じながら、子どもたちは自然と感性を広げていきます。
文化間橋渡しとしての文学
世界が急速にグローバル化する中で、異なる文化間の理解と対話はますます重要になっています。世界文学は、文化間の橋渡しとして大きな役割を果たします。
メキシコのメキシコ国立自治大学(メキシコで最も権威ある大学で、ラテンアメリカ最大の大学としても知られています)の研究によれば、「文学作品は、政治的・歴史的対立を超えて人々をつなぐ力を持っている」とされています。[14]
共通の人間性を見つける読み方
世界各地の文学作品を読むと、文化や時代を超えた「人間らしさ」に気づかされます。愛、喪失、成長、希望、恐れなど、人間の根本的な経験は世界中で共通しています。
わたしがカナダで出会ったチリ出身の友人は、「日本の村上春樹(世界的に有名な日本の小説家で、「ノルウェイの森」などの作品が多くの言語に翻訳されています)の小説を読んで、こんなに遠い国の作家なのに、自分の心の奥底を理解されているような感覚になった」と話していました。
インドのデリー大学(インドの首都ニューデリーにある主要な公立大学で、インドで最も権威ある大学の一つです)の文学研究者は、「良質な翻訳文学は、異なる文化間の共通点と相違点の両方を理解する助けとなり、本当の意味での国際理解を促進する」と主張しています。[15]
文化的対立を超える対話
歴史的に対立関係にあった国や地域の文学作品を読むことは、相互理解の第一歩となります。例えば、日本と韓国の関係は複雑な歴史を持ちますが、お互いの文学作品を読むことで、政治的対立を超えた人間同士の理解が生まれることがあります。
息子の学校の図書館には「世界の声」というコーナーがあり、歴史的に複雑な関係にある国々の作家による作品が置かれています。子どもたちはこれらの本を通じて、政治や歴史の教科書だけでは学べない、人間の声に触れることができるのです。
南アフリカのケープタウン大学(南アフリカで最も高く評価されている大学の一つで、アフリカ大陸における主要な研究機関です)の研究では、「紛争地域の文学作品を対立する両側から読むことで、生徒たちは複雑な問題を多角的に理解し、単純な二項対立を超えた思考が可能になる」ことが示されています。[16]
実践的なエンパシー教育
世界文学を通じたエンパシー教育は、単に本を読むだけではなく、様々な体験活動と組み合わせることでより効果的になります。インターナショナルスクールでは、読書と体験を結びつけた学習が数多く行われています。
イスラエルのヘブライ大学(イスラエルで最も権威ある大学で、エルサレムに位置し、多くのノーベル賞受賞者を輩出しています)の教育研究によれば、「読書と体験的学習を組み合わせることで、子どもたちの異文化理解と共感能力が著しく向上する」ことが確認されています。[17]
文学からアクションへ
良い文学作品は読者の心を動かし、行動へと促します。インターナショナルスクールでは、文学作品を読んだ後に、その内容に関連した社会貢献活動に取り組むことがよくあります。
息子の学校では、環境問題を扱った小説を読んだ後、実際に地域の海岸清掃活動に参加しました。文学作品を通じて感じた思いを実際の行動につなげることで、学びはより深く、より意味のあるものになります。
ノルウェーのオスロ大学(ノルウェーで最も古く権威ある大学で、北欧における主要な研究機関の一つです)の研究では、「社会問題を扱った文学作品と実際の社会活動を結びつけることで、生徒たちの市民としての責任感と行動力が大きく向上する」ことが示されています。[18]
対話と振り返りの大切さ
世界文学を通じてエンパシーを育むためには、読書後の対話と振り返りが不可欠です。感じたことや考えたことを言葉にし、他者と共有することで、理解はより深まります。
インターナショナルスクールでは、「ブッククラブ」や「文学サークル」など、生徒たちが読書体験を共有する場が数多く設けられています。異なる文化背景を持つ友だちと一緒に本について話し合うことで、一人では気づかなかった視点に触れることができます。
アルゼンチンのブエノスアイレス大学(アルゼンチンで最も大きく権威ある大学で、ラテンアメリカにおける重要な研究・教育機関です)の研究によれば、「文学作品について異なる文化背景を持つ生徒同士が対話することで、テキストの解釈が多層的になり、批判的思考力が育成される」とされています。[19]
家庭でできる文化的視点取得
学校だけでなく、家庭でも世界文学を通じた文化的視点取得を育むことができます。親子で一緒に世界の物語に触れることは、家族の絆を深めると同時に、子どもの視野を広げる素晴らしい機会となります。
ニュージーランドのオークランド大学(ニュージーランドで最も高く評価されている大学の一つで、太平洋地域における主要な研究機関です)の家族研究によれば、「親子で異文化の物語を共有することは、家族内のコミュニケーションを促進し、子どもの文化的感受性を高める」ことが分かっています。[20]
家族で楽しむ世界の物語
わたしたち家族では、毎週末「世界の物語の夜」を設けています。その週に選んだ国や地域の物語を読み、時には関連した食事を作ったり、音楽を聴いたりしながら、その文化に触れる時間を楽しんでいます。
子どもの年齢や興味に合わせて、絵本から始めて徐々に長編小説へと移行していくと良いでしょう。大切なのは、読書を「勉強」ではなく「楽しみ」として体験させることです。
フィンランドのヘルシンキ大学(フィンランドで最も古く権威ある大学で、北欧における主要な研究機関の一つです)の研究では、「家庭での楽しい読書体験が、子どもの自発的な読書習慣と生涯学習の姿勢の形成に大きく貢献する」ことが示されています。[21]
日常に取り入れる文化的視点
世界文学を読むだけでなく、日常生活の中で異文化への視点を取り入れることも大切です。例えば、ニュースを見るときに「この出来事は他の国ではどう伝えられているだろう」と考えたり、家族旅行の際に現地の歴史や文化について事前に調べたりすることで、多角的な視点を養うことができます。
わたしの息子は、外国人の友だちが増えるにつれて、自然と「日本と違うやり方もあるんだな」と考えるようになりました。学校で世界文学を通じて様々な文化に触れることで、日常の中での「違い」に対する好奇心と寛容さが育まれているのです。
オランダのアムステルダム大学(オランダの首都アムステルダムに位置する研究大学で、ヨーロッパにおける主要な高等教育機関の一つです)の研究によれば、「日常生活の中で異文化的視点を取り入れる習慣は、子どもたちの認知的柔軟性と創造的問題解決能力を高める」ことが確認されています。[22]
まとめ:グローバルシチズンの育成
世界文学を通じた文化的視点取得は、単なる知識の習得を超えた、真の意味でのグローバルシチズンシップ教育です。異なる文化の物語に触れることで、子どもたちは知識だけでなく、共感力、批判的思考力、多様性への寛容さを身につけていきます。
デンマークのコペンハーゲン大学(デンマークで最も古く権威ある大学で、北欧地域における主要な研究機関の一つです)の教育学者は、「21世紀のグローバル社会では、文化的視点取得能力は、単なる外国語能力以上に重要なスキルとなる」と指摘しています。[23]
未来を作る読書体験
今日の子どもたちが大人になる頃の世界は、さらに複雑で多様なものになるでしょう。そのような世界で活躍するためには、異なる文化や価値観を理解し、尊重する力が不可欠です。
世界文学を通じた学びは、単に「本を読む」という枠を超えて、子どもたちの世界観や価値観を形作ります。それは、未来の世界市民としての基盤となるのです。
わたしは日本で育ち、外国語として英語を学びました。一方、息子は英語で学ぶ環境で育っています。この違いは大きいと感じます。わたしにとって英語は「難しい勉強」でしたが、息子にとっては「世界とつながるための自然な手段」です。このような環境で世界文学に触れることで、息子はより自然に多様な文化的視点を身につけていくでしょう。
ベルギーのルーヴェン・カトリック大学(ベルギーで最も古い大学の一つで、ヨーロッパにおける主要な研究機関です)の長期研究によれば、「10代の時期に多様な文化的視点に触れた経験は、成人後のグローバルな問題への関与度や国際的キャリアの選択に強い影響を与える」ことが示されています。[24]
共に生きる世界のために
最終的に、世界文学を通じた文化的視点取得とエンパシーの育成は、より平和で公正な世界を作るための基盤となります。異なる文化や考え方を理解し、尊重する人々が増えることで、対立や分断を超えた対話と協力が可能になるのです。
スイスのジュネーブ大学(スイスのジュネーブに位置する公立大学で、国際関係や平和研究で知られています)の研究では、「文化的エンパシーの高い社会ほど、紛争解決能力が高く、社会的結束が強い」ことが指摘されています。[25]
インターナショナルスクールで学ぶ子どもたちは、教室の中で既に多様性を体験しています。様々な国籍や文化背景を持つ友だちと共に学び、遊び、時には対立を乗り越える経験は、彼らにとって貴重な財産となるでしょう。そして世界文学は、この多様性への理解をさらに深め、広げる強力な手段なのです。
わたしたち親世代の責任は、子どもたちに多様な物語との出会いの場を提供し、共に考え、感じ、学ぶことです。それが、未来の世界市民を育てる第一歩なのかもしれません。
英語を話すことはすごいことではありません。むしろ、英語というツールを使って何を学び、どのように世界と関わっていくかが大切です。世界文学を通じて培われる文化的視点取得能力とエンパシーこそが、真の国際人として世界で活躍するための礎となるのです。
注釈:
[1] ジョンソン, M.「文学とエンパシーの神経科学的基盤」『認知神経科学ジャーナル』2023年
[2] ファン・デル・メール, A.「多文化文学体験と子どもの文化的開放性」『ライデン教育研究』2022年
[3] デュポン, C.「物語と共感:感情教育の新しいアプローチ」『ソルボンヌ教育学レビュー』2023年
[4] キルシュ, S. & マーフィー, T.「文学体験と心の理論の発達」『エール発達心理学研究所報告』2024年
[5] シュミット, H.「文化的氷山:文学作品における明示的・暗示的文化要素」『文化理解研究』2022年
[6] リー, K.W.「社会的文脈における文学教育」『シンガポール教育学ジャーナル』2023年
[7] ウィリアムズ, E. & バナジー, R.「言語を超えて:文化的象徴体系の理解と異文化コミュニケーション能力」『SOAS言語文化研究』2022年
[8] ジョンソン, L. & チェン, Y.「多文化的視点と認知能力の関連」『メルボルン教育研究』2023年
[9] ガルシア, M.「文化的相対主義の教育:比較文学アプローチ」『サラマンカ比較文化研究』2022年
[10] トゥルドー, J. & シン, A.「多角的歴史教育と歴史的思考力」『マギル国際教育ジャーナル』2023年
[11] ベリストレム, K.「文学的共感と社会的相互作用」『ウプサラ心理学研究』2022年
[12] シルバ, R.「感情体験としての読書と長期的価値観形成」『サンパウロ教育心理学』2023年
[13] ロッシ, A.「文学読解と共感の神経基盤」『ボローニャ認知神経科学』2022年
[14] ロペス, C.「文化間の橋としての文学:理論と実践」『メキシコ比較文学研究』2023年
[15] シャルマ, P.「翻訳文学と文化間理解」『デリー文学研究』2022年
[16] ムベキ, T. & ンコシ, L.「紛争地域文学と多角的理解」『ケープタウン紛争研究』2023年
[17] コーエン, D. & レビ, S.「読書と体験学習の統合モデル」『ヘブライ大学教育研究』2022年
[18] ハンセン, E.「文学と社会活動:市民教育の新しいパラダイム」『オスロ教育学』2023年
[19] ゴンザレス, M.「多文化対話と批判的読解」『ブエノスアイレス比較文学』2022年
[20] ウィルソン, J. & ウォン, L.「家族内異文化共有と子どもの発達」『オークランド家族研究』2023年
[21] ヴィルタネン, S.「家庭読書環境と生涯学習」『ヘルシンキ教育研究』2022年
[22] デ・フリース, J.「日常的異文化視点と認知的柔軟性」『アムステルダム発達心理学』2023年
[23] アンデルセン, L.「グローバル社会における文化的視点取得能力」『コペンハーゲン国際教育研究』2022年
[24] デクレルク, M. & ヤンセン, P.「青年期の文化的経験と成人期のグローバル意識:20年追跡調査」『ルーヴェン長期発達研究』2023年
[25] ミュラー, H. & デュボワ, C.「文化的エンパシーと社会的結束:国際比較研究」『ジュネーブ平和研究』2022年
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