はじめに
世界がますますつながり、国と国との間で人や物、考え方が行き来する今日、子どもたちの教育も国をまたいで考える時代になりました。私たちの家族も、息子をインターナショナルスクールに通わせる中で、「よい学校」の選び方について多くを学んできました。特に大切なのは、学校がどのような基準で運営され、どんな質の教育を提供しているかを見極めることです。
世界には様々な学校がありますが、その質を保証する仕組みの一つが「CIS(カウンシル・オブ・インターナショナル・スクール)」による認定です。この記事では、多くの親が知らない、または誤解しているCIS認定の中身と、実際に子どもの学校を選ぶときの大切なポイントをお伝えします。
英語で学ぶ環境は、単に英語を学ぶ場所とは全く違います。実は日本語の方が英語より複雑な言語構造を持っているため、日本語をマスターしている子どもたちは、すでに英語を習得する十分な力を持っています。大切なのは、その力を引き出す環境と、世界で通用する教育の質です。
1. CIS認定制度の基本と意義
1.1 CISとは何か – 歴史と目的
CIS(カウンシル・オブ・インターナショナル・スクール)は、1965年に設立された非営利の教育機関で、世界中の学校が高い水準の教育を提供できるよう支援しています。もともとは欧米の学校が海外に分校を開く際の質を保つために始まった組織ですが、今では世界116カ国に広がり、1,390以上の学校や大学がつながっています1。
CISの主な目的は、学校の教育の質を高め、世界中どこでも通用する力を子どもたちに身につけさせることです。単に「英語で授業をする学校」を増やすのではなく、真の意味で国際的な考え方や行動ができる人を育てることを目指しています。
私の息子が通う学校でも、CISの考え方が日々の授業や学校運営に生かされています。先日、学校で保護者向けの説明会があった時、校長先生は「私たちはただ英語を教える場所ではなく、子どもたちが世界のどこでも自信を持って学び、働けるよう育てる場所です」と話していました。この考え方こそ、CISが大切にしていることの一つです。
1.2 認定プロセスの流れと厳しさ
CISの認定を受けるのは、簡単なことではありません。学校は長い時間をかけて、自分たちの教育内容や運営方法を見直し、改善していく必要があります。そのプロセスは大きく分けて次の段階があります2:
まず「会員申請」の段階では、学校の基本情報や教育目標、財務状況などを提出します。次に「自己評価」の段階で、学校自身が自分たちの強みや弱みを1年以上かけて徹底的に調べます。そして「訪問審査」では、世界各国から集まった教育の専門家が実際に学校を訪れ、授業を見たり、先生や生徒、保護者と話したりして評価します。
この訪問審査は3〜5日間にわたって行われ、学校のあらゆる面が細かくチェックされます。カナダの認定校で教えている友人によれば、「訪問審査の間は、学校中が緊張感に包まれます。でも、この厳しい目が私たちの学校を本当に良くしてくれるんです」とのことでした。
認定を受けた後も、学校は定期的に報告書を提出し、5年ごとに再審査を受けなければなりません。こうした継続的な改善の仕組みが、CIS認定校の質を保っているのです。
1.3 世界の教育ネットワークとしての役割
CISは単なる認定機関ではなく、世界中の学校をつなぐネットワークとしても機能しています。このネットワークを通じて、学校同士が良い取り組みを共有したり、先生たちが国を超えて学び合ったりすることができます3。
息子の学校では、オーストラリアのCIS認定校と定期的にオンライン交流を行っており、子どもたちは同じ年齢の外国の友達と一緒にプロジェクトに取り組んでいます。このような経験は、教科書だけでは得られない生きた国際理解を育みます。
また、CISは大学進学の支援も行っており、認定校の生徒たちが世界中の大学に進学する際の橋渡し役も果たしています。オランダの大学で働く知人によれば、「CIS認定校の卒業生は、国際的な視野と適応力が身についているため、海外の大学でも活躍する傾向があります」とのことです。
このように、CISは単に「国際的な学校の認定」を行うだけでなく、世界規模の教育コミュニティを形成し、子どもたちの未来の可能性を広げる役割も担っているのです。
2. CISの審査基準と学校への影響
2.1 8つの中心的な審査領域
CISの審査は非常に包括的で、学校のあらゆる面を評価します。特に次の8つの領域が中心となっています4:
まず「学校の目的と方向性」では、学校がどのような生徒を育てたいのか、その理念が明確で、実際の教育活動と一致しているかを見ます。次に「学校運営と指導力」では、校長や理事会など学校を動かす人たちが、効果的な指導を行っているかが評価されます。
「教育課程」の審査では、子どもたちが学ぶ内容が世界水準を満たし、様々な国の子どもたちのニーズに応えられるかを確認します。「学習と指導」では、実際の授業が子どもたちの理解を深め、考える力を育てるものになっているかをチェックします。
「生徒の生活と支援」では、子どもたちの心身の健康や安全が守られ、個々の子どもに合った支援が行われているかを評価します。「教職員」の項目では、先生たちが十分な資格と経験を持ち、継続的に学び続けているかが問われます。
「施設と資源」では、校舎や教材、図書館などが学びに適した環境かどうかを見ます。最後に「地域社会との関わり」では、学校が保護者や地域と良い関係を築き、様々な文化的背景を持つ家庭と協力しているかを評価します。
ドイツのCIS認定校で働く友人は、「これらの基準に合わせて学校を改善していくことで、私たちの視野が広がりました。特に異なる文化や言語を持つ子どもたちへの対応力が高まったと感じます」と話していました。
2.2 インクルーシブ教育と文化的理解の重視
CISの審査では、特に「すべての子どもを大切にする教育(インクルーシブ教育)」と「様々な文化の理解と尊重」が重視されています5。これは、国際的な環境で学ぶ子どもたちにとって特に重要な要素です。
インクルーシブ教育とは、学習の速さや得意不得意、文化的背景などに関わらず、すべての子どもが適切な教育を受けられるようにすることです。例えば、英語を母語としない子どもへの言語サポートや、学習に困難を抱える子どもへの個別支援などが含まれます。
息子のクラスには、日本、アメリカ、イギリス、中国、インド、オーストラリアなど、様々な国籍の子どもたちがいます。先生たちは、それぞれの子どもの文化的背景を尊重しながら、全員が学びに参加できるよう工夫しています。例えば、お祝い事や行事では、様々な国の伝統を取り入れ、子どもたちが互いの文化を学び合う機会を作っています。
シンガポールのCIS認定校に子どもを通わせている同僚は、「学校では定期的に『インターナショナルデー』が開かれ、各国の文化を祝います。子どもたちは自然と『違い』を受け入れ、尊重することを学んでいます」と語っていました。
この文化的理解の深さは、CIS認定校の大きな特徴の一つです。単に英語で授業を行うだけでなく、真の意味での国際理解を育む土壌があるのです。
2.3 継続的な改善と自己評価の文化
CIS認定の最も重要な特徴の一つは、「常に良くなろうとする姿勢(継続的改善)」を学校全体に根付かせることです6。認定は一度取得して終わりではなく、学校は常に自分たちの教育を振り返り、改善し続けることが求められます。
具体的には、学校は定期的に次のようなことを行います:
まず、生徒の学習成果を様々な方法で測定し、分析します。次に、保護者や生徒からのフィードバックを積極的に集め、改善に活かします。そして、世界的な教育の動向や最新の研究に基づいて、教育内容や方法を更新していきます。
息子の学校では、年に2回の保護者面談に加え、定期的なアンケート調査が行われ、学校運営に関する意見を求められます。また、先生たちは毎週研修の時間を持ち、お互いの授業を見学し合うなど、教育の質を高める取り組みが日常的に行われています。
イギリスの教育専門家は、「CIS認定校の大きな強みは、この『改善の文化』です。何か問題があっても、それを隠すのではなく、オープンに議論し、より良い解決策を見つけようとする姿勢があります」と指摘しています7。
この継続的な改善の仕組みが、CIS認定校が時代の変化に対応し、高い教育水準を維持できる理由の一つなのです。
3. インターナショナルスクール選びのポイント
3.1 認定と認証の違いを知る
インターナショナルスクールを選ぶ際、多くの親が混乱するのが「認定(アクレディテーション)」と「認証(オーソライゼーション)」の違いです。この違いを理解することは、学校選びの第一歩となります8。
「認定」とは、CISなどの第三者機関が学校全体の質を評価し、一定の基準を満たしていることを証明するものです。これに対して「認証」は、特定のカリキュラム(例:国際バカロレア、ケンブリッジ国際カリキュラムなど)を提供する許可を得ていることを示すものです。
重要なのは、カリキュラムの認証を受けていても、学校全体の認定を受けているとは限らない点です。例えば、国際バカロレア(IB)のプログラムを提供する認証は受けていても、学校運営や施設、教員の質などを含めた総合的な評価であるCIS認定は受けていない学校もあります。
香港で教育コンサルタントをしている友人は、「親はよく『うちの学校はIB校です』という言葉だけで安心してしまいますが、それはカリキュラムだけの話。学校全体の質を知るには、CISなどの認定も確認すべきです」と助言しています。
学校見学の際には、「どのような認定や認証を受けているか」を具体的に尋ね、その内容を理解することが大切です。認定状況は、学校のウェブサイトや受付に掲示されていることが多いので、確認してみましょう。
3.2 教師の質と継続的な専門性開発
インターナショナルスクールの質を大きく左右するのが、教師の専門性です。CIS認定校では、教師の資格や経験だけでなく、継続的な学びの機会が提供されているかも重視されます9。
良い学校を見分けるポイントとして、次のような点に注目すると良いでしょう:
まず、教師が適切な資格(教員免許や国際教育の専門資格など)を持っているかを確認します。次に、教師の経験年数や国際教育の経験はどの程度あるかを見ます。そして、学校が教師の研修や専門性向上にどれだけ力を入れているかをチェックします。
息子の学校では、新しい先生が着任すると、経験豊かな先生がメンターとして支援する制度があります。また、年に数回、全教員が参加する研修日が設けられ、最新の教育方法について学んでいます。オンラインでの教育が増えた昨今では、デジタルツールを効果的に活用するための研修も定期的に行われています。
カナダの教育研究者は、「教師の質が学校の質を決める最大の要因です。優れた教師は、どのようなカリキュラムでも生き生きとしたものに変えることができます」と述べています10。
学校見学の際には、教師との対話の機会を持ち、彼らの教育に対する熱意や専門知識、子どもへの接し方などを感じ取ることが大切です。また、「教師の研修にどのように取り組んでいるか」を学校側に質問してみることも有効です。
3.3 学校コミュニティと保護者の関わり
子どもの教育は、学校だけで完結するものではありません。家庭と学校がどれだけ良い関係を築き、協力できるかが、子どもの成長に大きく影響します。CISの審査でも、学校コミュニティの質と保護者の参加機会は重要な評価ポイントとなっています11。
良い学校コミュニティの特徴として、次のような点が挙げられます:
まず、保護者と教師の間でオープンなコミュニケーションが取られているかを見ます。次に、保護者が学校活動に参加する機会が豊富にあるかをチェックします。そして、様々な文化的背景を持つ家族が尊重され、受け入れられる雰囲気があるかを感じ取ります。
息子の学校では、学期ごとに「保護者カフェ」という集まりがあり、校長や教師と気軽に話せる機会が設けられています。また、「保護者教師会(PTA)」は非常に活発で、学校行事のサポートや新しい家族の歓迎など、様々な活動を行っています。特に印象的だったのは、新学期の始めに行われる「ウェルカムピクニック」で、新しく入学した家族と在校生の家族が交流し、学校コミュニティの一員になる手助けをしていました。
オーストラリアの教育コンサルタントは、「インターナショナルスクールを選ぶ際、学業面だけでなく、その学校のコミュニティがあなたの家族に合うかも考慮すべきです。特に海外からの家族にとって、学校コミュニティは重要な支えになります」とアドバイスしています12。
学校見学の際には、他の保護者と話す機会を求めたり、保護者会の活動について質問したりすることで、そのコミュニティの雰囲気を感じ取ることができるでしょう。
おわりに
インターナショナルスクール選びは、家族にとって大きな決断です。CIS認定のような国際的な基準を理解し、学校の質を見極める目を持つことは、子どもの未来のために非常に重要です。
私たち家族の経験から言えることは、単に「英語で学べる学校」を選ぶのではなく、子どもの全人的な成長を支え、世界へとつながる扉を開いてくれる学校を選ぶことの大切さです。息子は入学から5年が経ち、英語はもちろん、世界の様々な文化や考え方に触れ、自分の考えを持ち、それを表現できる力を育んでいます。
日本語という複雑な言語をマスターした子どもたちには、英語を習得する潜在能力が十分にあります。大切なのは、その能力を引き出し、世界で活躍するための幅広い力を育む環境です。CIS認定校は、そのような質の高い国際教育を保証する一つの目安となるでしょう。
最後に、学校選びで最も大切なのは、その学校が子どもと家族に合っているかという点です。様々な認定や評判も参考にしつつ、実際に学校を訪れ、雰囲気を感じ、子どもの目線で考えることを忘れないでください。子どもたちの可能性を最大限に引き出す場所を見つけるために、この記事が少しでもお役に立てば幸いです。
引用・参考文献
1 Council of International Schools. (2024). “About CIS”. https://www.cois.org/about-cis
2 CIS Accreditation Service. (2023). “The Accreditation Process”. https://www.cois.org/for-schools/international-accreditation
3 International School Consultancy Group. (2024). “The Value of School Networks”.
4 Council of International Schools. (2023). “CIS International Accreditation (12th Edition) Standards & Indicators”. https://www.cois.org/for-schools/international-accreditation/standards
5 Hayden, M. (2023). “International Education and Cultural Understanding”. Journal of Research in International Education, 22(1), 35-48.
6 Council of International Schools. (2024). “Continuous School Improvement”. https://www.cois.org/for-schools/international-accreditation/school-improvement
7 Bunnell, T. (2022). “Quality Assurance in International Schools”. International Schools Journal, 41(2), 14-22.
8 International School Search. (2024). “Understanding School Accreditation vs. Authorization”.
9 Walker, G. (2023). “Teacher Quality in International Education”. International Schools Journal, 42(1), 58-67.
10 Ontario Institute for Studies in Education. (2024). “The Impact of Teacher Quality on Student Achievement”.
11 International School Parent Magazine. (2023). “Building Strong School Communities”.
12 Good Schools Guide International. (2024). “Choosing the Right School Community”.
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