SDGsが変える教室の風景:世界の共通言語としての持続可能な開発目標
息子が通うインターナショナルスクールで、最近とても興味深い光景を目にしました。中学2年生の生徒たちが、地域のゴミ問題について熱心に話し合っているのです。しかし、ただの話し合いではありません。彼らは国連の持続可能な開発目標(SDGs)のフレームワークを使って、問題を分析し、解決策を考えていたのです。
SDGsとは、2015年に国連加盟国すべてが合意した17の世界共通の目標です。2030年までに達成を目指すこれらの目標は、貧困をなくし、地球を守り、すべての人が平和と豊かさを享受できるようにするための青写真として作られました。これらの目標は、単なる理想論ではなく、教育現場で実際に使える強力な学習ツールとなっています。
世界中のインターナショナルスクールでは、SDGsを単に教科書で学ぶだけでなく、生徒たちが実際に行動を起こすための指針として活用しています。科学者によると、気候変動は生活を脅かし、紛争を引き起こし、生物多様性の損失を加速させ、病気の発生を悪化させ、政治的・社会的システムを不安定にし、経済的ショックを引き起こし、不平等を増大させる可能性があるという認識のもと、次世代の教育がいかに重要かが理解されています。
17の目標が示す学習の新しい地図
SDGsの17の目標は、それぞれが独立しているように見えて、実は密接につながっています。例えば、「質の高い教育をみんなに」(目標4)は、他のすべての目標を達成するための基盤となります。教育は多くの他の持続可能な開発目標(SDGs)を達成するための鍵であり、貧困の連鎖を断ち切り、不平等を減らし、より健康的で持続可能な生活を送る力を人々に与えます。
多くのインターナショナルスクールでは、これらの目標を教科横断的に扱っています。数学の授業では統計を使って貧困率を分析し、理科では気候変動のメカニズムを学び、社会科では不平等の歴史的背景を探ります。このように、SDGsは学習を現実世界とつなげる架け橋となっているのです。
特に注目すべきは、2024年1月時点で、世界中に14,010校の英語を教授言語とするインターナショナルスクールがあり、690万人の生徒が在籍しているという事実です。これらの学校の多くが、SDGsを教育の中心に据えているのは、偶然ではありません。グローバルな視点を持つ市民を育てるという使命と、SDGsの理念が完全に一致しているからです。
生徒主導で進む変革の波
息子の学校では、生徒会が中心となってSDGs推進委員会を作りました。面白いのは、この委員会が単なる啓発活動にとどまらず、実際の学校運営にも関わっている点です。例えば、学校のカフェテリアでの食品ロスを減らすプロジェクトでは、生徒たちがデータを集め、分析し、改善案を提案しました。その結果、食品廃棄物が前年比で30%も減少したそうです。
このような生徒主導の取り組みは、世界中で広がっています。ニューヨーク市のジュニアアンバサダープログラムでは、公立中学校と高校の生徒たちが、SDGsの枠組みに導かれながら、地域と世界をつなげることでグローバル市民意識を育んでいるのです。2015年のプログラム開始以来、約5,300人の生徒と教育者が参加しています。
また、東南アジア青少年リーダーシッププログラム(SEAYLP)では、ASEAN加盟10か国から60名の参加者を受け入れ、21世紀にアメリカとASEANが直面する課題を探求しています。参加者は、地域社会のニーズに対応するプロジェクトを開発し、帰国後に実施することが求められます。
デザイン思考が育む創造的問題解決:共感から始まる学び
SDGs教育において、特に効果的なアプローチの一つがデザイン思考です。デザイン思考の手法は、生徒たちに共感の感覚を持って課題に取り組むことを促し、実際にその問題に直面している人の目を通して問題を見るようにするという特徴があります。これは、従来の問題解決アプローチとは大きく異なります。
デザイン思考のプロセスは、一般的に5つの段階から成り立っています:共感、問題定義、アイデア創出、プロトタイプ作成、テストです。このプロセスは直線的ではなく、何度も繰り返すことで、より良い解決策に近づいていきます。
共感から始まる学習体験
息子のクラスでは、地域の高齢者施設を訪問し、住民の方々との対話から始まりました。生徒たちは、高齢者が日常生活で直面している課題を直接聞き、観察しました。この「共感」の段階で、生徒たちは問題を外から見るのではなく、当事者の立場に立って理解しようとします。
デザイン思考は、SDGsの主題に取り組むのに非常に適した方法である。なぜなら、その複雑さゆえに、ほとんどの目標は学際的なアプローチを必要とし、それはデザイン思考の考え方の核心的要素だからです。さらに、SDGsは世界的な関心事でありながら、地域での行動を必要とします。デザイン思考のアプローチは通常、地域の文脈から具体的な問題を定義し、その課題に対する最適な解決策を開発します。
例えば、水資源の問題(SDG6:安全な水とトイレを世界中に)に取り組む際、生徒たちは地域の水使用状況を調査し、無駄を減らすための革新的なアイデアを出し合いました。ある生徒グループは、学校のトイレに節水システムを導入する提案をし、実際にプロトタイプを作成して効果を測定しました。
失敗を恐れない文化の醸成
デザイン思考の重要な側面の一つは、「失敗を前向きに捉える」という考え方です。デザイン思考は行動への偏りを促し、迅速なプロトタイピングへの依存により、実践者は「前向きな失敗」という概念を受け入れることができる。なぜなら、間違いを犯してもよい――そこから画期的なアイデアが生まれるからです。
この考え方は、特にアジアの教育文化において革新的です。従来の「正解を求める」教育から、「より良い解決策を探す」教育への転換は、生徒たちの創造性と自信を大きく育てています。私の息子も、最初は失敗を恐れていましたが、今では「うまくいかなかったら、別の方法を試せばいい」と言うようになりました。
教科を超えた統合的学習
複雑なSTEMのトピックは、きれいな飲み水や持続可能な発電などの具体的な問題を通じて説明でき、デザイン思考はこれらの問題をより取り組みやすくするのです。例えば、エネルギー問題(SDG7:エネルギーをみんなに そしてクリーンに)を扱う際、物理の授業では太陽光発電の仕組みを学び、技術の授業では実際にソーラーパネルを使った装置を作り、社会科では再生可能エネルギーの普及における政策の役割を議論します。
このような統合的なアプローチは、生徒たちに現実世界の問題の複雑さを理解させ、単一の視点では解決できないことを教えます。また、チームワークの重要性も自然に学ぶことができます。異なる強みを持つ生徒たちが協力することで、より創造的で実現可能な解決策が生まれるのです。
社会実践プログラムの展開:教室から地域へ、そして世界へ
SDGs教育の真の価値は、学んだことを実際の行動に移すときに現れます。世界中のインターナショナルスクールでは、様々な社会実践プログラムを通じて、生徒たちが地域社会に貢献する機会を提供しています。
地域に根ざした活動の重要性
2024年、シニアスクールの生徒たちは「チェンジメーカーズ」という学期を通じた協働的なサービスラーニングプロジェクトに取り組んでいる。生徒たちは地域のニーズを特定し、間接的または直接的なサービス活動を設計・実行し、その後、自分たちのサービスが対象コミュニティに与えた影響について振り返るというプログラムが実施されています。
私の息子の学校でも、似たようなプログラムがあります。昨年、彼らのグループは地域の公園の生物多様性を調査し、外来種の問題に気づきました。そこで、地元の環境保護団体と協力して、在来種を守るための啓発キャンペーンを展開しました。看板の設置、ワークショップの開催、そして定期的な清掃活動を通じて、公園の生態系改善に貢献しました。
このような活動の素晴らしい点は、生徒たちが単に「良いことをしている」という満足感を得るだけでなく、実際の変化を起こすプロセスを体験できることです。計画立案、資金調達、関係者との調整、効果測定など、実社会で必要なスキルを実践的に学んでいます。
グローバルな視点での行動
地域での活動に加えて、多くの学校では国際的なプロジェクトにも参加しています。Schools 4 Schoolsは11年生の遺産プロジェクトで、生徒たちはネパールとインドのAIS姉妹校のために資金を集める。募金活動にはチームトライアスロン、外国映画の夕べ、タレントショー、ベーキングコンペティションなどが含まれる。2023年、11年生の生徒たちはS4Sのために3万ドルを集めたという取り組みもあります。
重要なのは、これらの活動が一方的な「援助」ではなく、相互理解と協力に基づいていることです。生徒たちは支援先の学校とビデオ通話で交流し、現地の課題や文化について学びます。このような経験を通じて、グローバルな課題に対する深い理解と、文化を超えた協働の重要性を学んでいきます。
持続可能な変化を生み出すために
社会実践プログラムの成功の鍵は、一時的な活動で終わらせないことです。プロジェクトが継続するための方法を構築する。例えば、地域でのトレーニング、安定した資金調達、アイデアを共有し複製する方法など。これにより、プロジェクトが開始後も継続されるという視点が重要です。
例えば、ある生徒グループが始めた学校内でのリサイクルプログラムは、3年経った今でも続いています。初代のメンバーは卒業しましたが、後輩たちに引き継がれ、さらに改善されています。年間のプラスチック廃棄物削減量は、開始時の2倍以上になったそうです。
また、シエナソリューションズチャレンジの一環として、生徒たちは最終的に具体的な何かを作り出す。この学習の成果物は、製品、キャンペーン、システム、または革新的なアイデアなど、彼らが関心を持つ問題に対処するものとなります。教育者は、生徒のプロジェクトを維持・拡大するために3,000ドルの持続可能性賞に応募することもできます。
評価と振り返りの重要性
社会実践プログラムにおいて、活動後の振り返りは極めて重要です。生徒たちは、自分たちの行動がどのような影響を与えたか、何がうまくいき、何が改善できるかを分析します。この過程で、批判的思考力と自己反省の能力が養われます。
息子の学校では、各プロジェクトの終了後に「インパクトレポート」を作成します。データを集め、関係者からフィードバックを得て、次回への改善点をまとめます。この習慣は、将来どのような分野で働くにしても、役立つスキルとなるでしょう。
未来を見据えた教育の形
ストーリーテリングは強力なコミュニケーションツールであり、子どもたちが日常生活で使う教訓や美徳を記憶するのに役立つ。フリーダの物語の制作の背景にあるアイデアは、持続可能な開発目標(SDGs)の教訓を単純化し、幼い子どもたちが関連し、より良く理解できるようにすることです。このように、年齢に応じた多様なアプローチが開発されています。
SDGsを活用した社会実践プログラムは、単に「良い市民」を育てるだけでなく、複雑な問題に取り組み、創造的な解決策を生み出し、多様な人々と協力できる人材を育成します。これらのスキルは、急速に変化する21世紀の社会で成功するために不可欠です。
私たち親として、また教育に関わる者として、子どもたちがこのような機会を持てることに感謝しています。彼らは教科書の知識だけでなく、実際に世界を変える力を身につけているのです。それは、英語を学ぶ場所としてのインターナショナルスクールではなく、英語で学び、行動する場所としての真の価値だと思います。
SDGsという共通の枠組みを通じて、世界中の若者たちがつながり、協力し、より良い未来を作っていく。その過程で身につける問題解決能力、共感力、そして行動力は、どんな言語を話すかよりも、はるかに重要な「グローバルコンピテンシー」なのです。
引用元:
United Nations. (2024). “The 17 Goals | Sustainable Development.” https://sdgs.un.org/goals
Global Schools Program. (2024). “Empowering schools and teachers globally to educate children about the SDGs.” https://www.globalschoolsprogram.org/
ISC Research. (2024). “Data on the international schools market in 2024.” https://iscresearch.com/data-on-the-international-schools-market-in-2024/
Education – United Nations Sustainable Development. (2023). https://www.un.org/sustainabledevelopment/education/
UN Foundation. (2024). “Why 2024 Could Be a Huge Year for the SDGs in the U.S.” https://unfoundation.org/blog/post/why-2024-could-be-a-huge-year-for-the-sdgs-in-the-u-s/
Department of Economic and Social Affairs. “Design Thinking in STEM: Education project combining STEM education, design based education and the challenges addressed by the SDGs.” https://sdgs.un.org/partnerships/design-thinking-stem-education-project-combining-stem-education-design-based-education
U.S. Embassy & Consulate in Thailand. (2023). “2024 Southeast Asia Youth Leadership Program Thailand.” https://th.usembassy.gov/2024-seaylp/
Singapore Expat Living. (2024). “Students benefit from service learning and community work projects.” https://expatliving.sg/service-learning-international-schools-singapore-community-work/
Class Tech Tips. (2024). “A Design Challenge for Teaching Sustainable Development Goals.” https://classtechtips.com/2024/09/26/teaching-sustainable-development-goals/
Thomas Riddle. (2016). “Improving Schools Through Design Thinking.” Edutopia. https://www.edutopia.org/blog/improving-schools-through-design-thinking-thomas-riddle
Department of Economic and Social Affairs. “Storytelling and Human-centered Curriculum Design for SDGs.” https://sdgs.un.org/partnerships/storytelling-and-human-centered-curriculum-design-sdgs-advancing-grassroots
Statanalytica. (2024). “Top 17 SDG Project Ideas To Try In 2024.” https://statanalytica.com/blog/sdg-project-ideas/



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