はじめに
国際バカロレア(International Baccalaureate、以下IBと略します)は、世界中で認められている教育プログラムです。IBは、子どもたちが世界で活躍できる力を身につけることを目指しています。日本では、近年IBを取り入れる学校が増えています。この記事では、日本のIB認定校における三つの主要プログラム(PYP、MYP、DP)の実施状況と特徴について詳しく見ていきます。
世界では160以上の国で5,700校以上がIBプログラムを提供しています。日本国内では2023年10月時点で、IB認定校は100校を超えました。これらの学校では、一つまたは複数のIBプログラムが実施されています。
私の息子は日本国内の米国基準のインターナショナルスクールに通っており、そこでの経験も交えながら、IB教育の実際について紹介します。
1. PYP(初等教育プログラム)の実施状況と特徴
1.1 PYPの基本的な考え方と目標
PYP(Primary Years Programme、初等教育プログラム)は、3歳から12歳までの子どもを対象としたプログラムです。PYPでは、子どもたちが自ら考え、調べ、発見する「探究」を中心とした学びを大切にしています。
PYPの最も大きな特徴は、教科の枠を超えた「概念的理解」を促すことです。例えば「変化」や「原因と結果」などの大きな概念を通して、様々な教科の内容を結びつけて学びます。この方法により、子どもたちは知識をただ覚えるだけでなく、深く理解し応用する力を身につけることができます。
息子の学校では、一年間を通して六つの「探究の単元」に取り組みます。各単元は約6週間続き、「私たちは誰か」「私たちはどのような場所と時代を生きているか」などの大きなテーマに基づいています。これらのテーマは、子どもたちが国や文化の違いを超えて共通して考えるべき重要な事柄です。
1.2 日本におけるPYP実施校の特色
日本国内のPYP認定校は、インターナショナルスクールだけでなく、公立や私立の日本の学校も含まれています。これらの学校では、日本の学習指導要領とPYPを両立させる工夫がなされています。
例えば東京学芸大学附属国際中等教育学校(東京学芸大学附属こくさいちゅうとうきょういくがっこう)では、日本の教育課程の内容をPYPの探究的な学習方法で教えることで、両方の良さを取り入れています。このような「ハイブリッド型」のアプローチは、日本独自のIB実践の形と言えます。
また、玉川学園(たまがわがくえん)のようにPYP、MYP、DPの全プログラムを提供する「コンティニュアム校」も増えています。このような学校では、3歳から18歳まで一貫したIB教育を受けることができ、子どもの成長に合わせた継続的な学びの環境が整っています。
1.3 PYPにおける学びの進め方と評価
PYPでは、従来の「先生が教え、子どもが聞く」という形ではなく、子どもたち自身が「疑問を持ち、調べ、考え、まとめる」という過程を大切にします。この過程を通して、子どもたちは知識だけでなく、考え方や学び方も身につけていきます。
息子のクラスでは、「水はどのように私たちの生活に影響するか」という探究の単元で、子どもたちが自ら水に関する疑問を出し合い、グループで調べ学習を進めました。ある子は水の循環について、別の子は世界の水問題について調べ、最後にクラス全体で発表し合いました。このような学習を通じて、教科書の知識だけでなく、調べる力や発表する力も育まれています。
PYPでの評価は、テストの点数だけではありません。子どもたちの日々の活動や発言、作品などを多角的に見て、成長の過程を評価します。また、子ども自身が自分の学びを振り返る「自己評価」も重視されています。これにより、子どもたちは「何ができるようになったか」「次に何を学びたいか」を自分で考える力を育てています。
2. MYP(中等教育プログラム)の実施状況と特徴
2.1 MYPのカリキュラム構造と学習アプローチ
MYP(Middle Years Programme、中等教育プログラム)は、11歳から16歳の生徒を対象としたプログラムです。MYPでは、八つの教科グループ(言語と文学、言語習得、個人と社会、理科、数学、芸術、保健体育、デザイン)をバランスよく学びます。
MYPの特徴は、これらの教科を単独で学ぶだけでなく、「概念的理解」と「グローバルな文脈」を通して結びつけて学ぶことです。例えば、「持続可能性」という概念を、理科では環境の観点から、社会では経済の観点から学ぶことで、多角的な理解を深めます。
息子の学校のMYPでは、各教科の先生方が協力して「学際的単元」を計画します。例えば、「グローバリゼーションと持続可能性」というテーマで、社会科では貿易の影響を、理科では環境への影響を、数学ではデータ分析を通してこの問題を考察しました。このような学びを通して、生徒たちは複雑な問題を多角的に見る力を養っています。
2.2 日本におけるMYP実施校の課題と工夫
日本でMYPを実施する上での大きな課題の一つは、日本の中学・高校の学習指導要領との両立です。特に受験を控えた生徒にとって、MYPの探究的な学習と受験準備をどう両立させるかは重要な問題です。
この課題に対して、多くの学校では創意工夫を凝らしています。例えば、サニーサイドインターナショナルスクール(東京都内にある私立のインターナショナルスクール)では、MYPの探究的アプローチを取り入れながらも、受験に必要な内容を確実に押さえる「ハイブリッドカリキュラム」を開発しています。また、土曜日や放課後に受験対策の時間を設けるなど、両方のニーズに応える取り組みも見られます。
また、言語面での配慮も特徴的です。多くの日本のIB校では、英語と日本語の両方でMYPを提供しています。これにより、英語力に自信がない生徒も無理なくIB教育を受けることができます。さらに、帰国生や外国人生徒に対しては、日本語のサポートを手厚く提供する学校も増えています。
2.3 MYPにおける評価方法と「パーソナルプロジェクト」
MYPでの評価は、教科ごとに四つの評価規準(A~D)に基づいて行われます。例えば数学では、「知識と理解」「パターンの探究」「コミュニケーション」「実生活での応用」という四つの観点から評価されます。これらの規準は、単に知識を問うだけでなく、思考力や応用力も含めた総合的な力を見るものです。
MYP最終学年で取り組む「パーソナルプロジェクト」は、生徒が自分の興味に基づいてテーマを選び、約半年かけて調査・研究し、最終的に成果物を作り上げるプロジェクトです。息子の友人は「プラスチック汚染と海洋生物への影響」をテーマに選び、調査結果をまとめたウェブサイトを作成しました。この過程で、情報収集力、分析力、計画性、創造性など、様々な力が磨かれます。
このようなプロジェクト学習は、単なる知識の暗記ではなく、実社会の問題に向き合い解決する力を育てる上で非常に効果的です。大学や将来の職場で求められる「自ら課題を見つけ、解決する力」の基礎を、中等教育段階から培っていると言えるでしょう。
3. DP(ディプロマプログラム)の実施状況と特徴
3.1 DPの科目構成と「コア」要素
DP(Diploma Programme、ディプロマプログラム)は、16歳から19歳の生徒を対象とした2年間のプログラムです。DPでは、六つのグループ(言語と文学、言語習得、個人と社会、理科、数学、芸術)から一つずつ科目を選択して学びます。各科目は「高水準(HL)」と「標準水準(SL)」があり、生徒は自分の進路や興味に合わせて選択します。
DPの特徴的な要素として「コア」と呼ばれる三つの必修要素があります。それは、「知の理論(TOK)」「課題論文(EE)」「創造性・活動・奉仕(CAS)」です。「知の理論」では「知識とは何か」「どのように知るのか」といった哲学的な問いを探究します。「課題論文」では、生徒が関心のあるテーマについて4,000語の小論文を書きます。「創造性・活動・奉仕」では、芸術活動やスポーツ、ボランティア活動などに取り組みます。
息子の学校のDPでは、「知の理論」の授業で「科学的知識はどこまで信頼できるか」というテーマで議論を行いました。生徒たちは科学の方法論の強みと限界について考え、科学と他の知識領域(芸術や歴史など)との違いを探究しました。このような学びを通して、知識を批判的に捉える力が育まれています。
3.2 日本におけるDP実施校の増加と多様化
日本では、2013年に文部科学省が「スーパーグローバルハイスクール(SGH)」事業を開始し、国際的な教育プログラムを推進したことをきっかけに、DPを導入する学校が急増しました。現在では、私立・公立を問わず、多くの高校がDPを提供しています。
特に注目すべき点は、「日本語DP」の導入です。これは、DPの科目を日本語で学べるようにしたもので、英語力に不安がある生徒でもIB教育を受けられるようになりました。例えば、渋谷教育学園渋谷高等学校(しぶやきょういくがくえんしぶやこうとうがっこう)では、一部の科目を日本語で、一部を英語で提供する「デュアルランゲージDP」を実施しています。これにより、より多くの日本人生徒がIB教育にアクセスできるようになりました。
また、岡山県立岡山操山高等学校(おかやまけんりつおかやまみさおやまこうとうがっこう)のような公立校でもDPが導入されるようになり、経済的な理由でインターナショナルスクールに通えない生徒にもIB教育の機会が広がっています。これは、教育の機会均等という観点からも重要な変化です。
3.3 DPの学習成果と大学進学への影響
DPを修了すると「IBディプロマ」が授与されます。このディプロマは世界中の多くの大学で高く評価されており、入学審査の際に有利に働くことがあります。例えば、オックスフォード大学やケンブリッジ大学などの世界トップクラスの大学では、IBディプロマの取得者に対して特別な入学枠を設けているところもあります。
日本国内でも、IBディプロマを評価する大学が増えています。東京大学や京都大学、早稲田大学、慶應義塾大学などの有名大学では、IBディプロマ取得者向けの特別入試制度を設けています。これらの入試では、IBの成績と面接などによって選考が行われ、従来の一般入試とは異なるアプローチで学生を受け入れています。
IBディプロマ取得者の大学での成績を追跡調査した研究によると、彼らは批判的思考力、研究スキル、時間管理能力などにおいて高い評価を受けていることが分かっています。これは、DPでの厳格な学術トレーニングが、大学での学びに直接役立っていることを示しています。
息子の学校のDP卒業生の多くは、国内外の名門大学に進学しています。ある卒業生は「DPでの課題論文の経験が、大学でのレポート作成に非常に役立っている」と話していました。また別の卒業生は「知の理論で培った批判的思考力が、大学での討論や研究において強みになっている」と述べています。
日本のIBスクールの学びの環境と特色
多様性を重視した学習環境
日本のIBスクールの大きな特徴は、多様な文化的背景を持つ生徒が学ぶ環境です。インターナショナルスクールでは、様々な国籍の生徒が共に学び、互いの文化や考え方を尊重する姿勢が自然と育まれています。
息子のクラスには、日本、アメリカ、カナダ、オーストラリア、インド、韓国など多くの国の生徒がいます。「国際理解」という言葉を教えるのではなく、日常的に異なる文化や価値観に触れることで、自然と世界に開かれた視野を持つことができています。
また、多くのIBスクールでは「マザーランゲージ」を大切にしています。英語で学びながらも、自分の母国語を維持・発展させるためのプログラムが用意されています。日本人の生徒にとっては、英語と日本語の両方で高いレベルの学力を身につけられる環境が整っています。
教師の専門性と継続的な研修
IBプログラムを実施するには、教師がIBの教育理念や方法論を深く理解していることが不可欠です。そのため、IB認定校の教師は定期的に国際バカロレア機構が提供する研修に参加し、世界中のIB教師とのネットワークを築いています。
息子の学校では、年に数回、全教員が参加するIB研修が行われています。また、オンラインプラットフォームを通じて世界中のIB教師と教材や指導法を共有する機会もあります。このような継続的な専門性の向上が、質の高いIB教育を支えています。
日本のIBスクールには、日本人教師と外国人教師がチームを組んで教える「協働指導」の形態も見られます。これにより、言語面でのサポートだけでなく、異なる文化的視点からの指導が可能になっています。
施設・設備と学習環境
IBプログラムでは、探究的な学習活動が多いため、それに適した施設・設備が重要です。多くのIBスクールでは、図書館やメディアセンター、実験室、アートスタジオなどが充実しています。
息子の学校では、図書館には英語と日本語の蔵書が豊富にあり、調べ学習に活用されています。また、タブレットやノートパソコンなどのICT機器も整備され、情報収集や発表資料の作成に役立てられています。
また、「ラーニングコモンズ」と呼ばれる自由度の高い学習スペースを設け、生徒たちがグループワークや個別学習を行える環境を整えている学校も増えています。このような柔軟な学習空間は、IBの探究的な学びをサポートする上で効果的です。
IB教育の課題と今後の展望
日本の教育システムとの調和
日本でIB教育を実施する上での大きな課題は、日本の従来の教育システムとの調和です。特に、受験に向けた知識習得重視の教育と、IBの探究的アプローチをどう両立させるかは多くのIB校が取り組んでいる課題です。
この課題に対して、「日本語DP」の導入や、IBと学習指導要領を融合させた「ハイブリッドカリキュラム」の開発など、日本独自の解決策が生み出されています。これらの取り組みは、IB教育を日本の教育風土に根付かせる上で重要な役割を果たしています。
また、文部科学省も「IB教育推進コンソーシアム」を設立し、IBと日本の教育システムの調和を図るための研究や支援を行っています。このような官民一体の取り組みにより、IB教育は日本でより広く受け入れられるようになりつつあります。
経済的・地理的アクセスの課題
IBスクール、特にインターナショナルスクールの多くは学費が高額で、経済的な理由からアクセスが制限されるという課題があります。公立校へのIB導入はこの課題への一つの解決策ですが、現状ではまだ限られた地域でしか実施されていません。
また、IBスクールは都市部に集中しており、地方に住む子どもたちの選択肢は限られています。この地理的な偏りを解消するため、オンラインIBコースの開発や、地方の学校へのIB導入支援など、新たな取り組みが始まっています。
例えば、広島県では県全体でIB教育を推進する「IBスクールネットワーク」が形成され、地方でもIB教育へのアクセスを広げる模範的な取り組みとなっています。このようなモデルが他の地域にも広がることが期待されています。
未来に向けたIB教育の可能性
AIやロボティクスの発展により、将来の社会や職業がどう変わるか予測が難しい中、IBのような「考え方や学び方を学ぶ」教育の重要性はますます高まっています。単なる知識の暗記ではなく、批判的思考力や創造性、協働する力などを育むIB教育は、不確実な未来に対応できる人材育成に適していると言えるでしょう。
また、SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みなど、地球規模の課題解決には国境を越えた協力が不可欠です。IBの「国際的な視野」や「異文化理解」を重視する教育は、そのような地球市民を育てる上で大きな役割を果たすことが期待されています。
日本のIB教育は、グローバルなIBの枠組みと日本の教育の良さを融合させた独自の発展を遂げつつあります。今後も、より多くの子どもたちがIB教育にアクセスできるよう、制度面、経済面での改革が進むことが望まれます。
世界と日本のIBプログラムの違い
言語と文化的側面
世界のIBスクールと日本のIBスクールの大きな違いの一つは、言語環境です。欧米のIBスクールでは、多くの場合、英語が主要言語であり、生徒の多くは英語を第一言語または第二言語として十分に使いこなせます。一方、日本のIBスクールでは、特に日本人生徒の多い学校では、英語と日本語のバイリンガル環境を整える工夫がなされています。
例えば、授業中に英語で説明した後、日本語で補足説明を行ったり、授業資料を両言語で用意したりする「足場かけ(スキャフォールディング)」と呼ばれるアプローチが取られています。これは日本独自の実践と言えるでしょう。
また、文化的な側面でも違いがあります。日本のIBスクールでは、探究的な学習スタイルと日本の伝統的な教育観(例えば、礼儀や集団での協調性を重視する姿勢)を両立させる工夫がなされています。学校行事や部活動など、日本の学校文化の良い面を取り入れながら、IBの国際的視野を育む取り組みは、日本のIBスクールならではの特徴です。
カリキュラムの実施方法
カリキュラムの実施方法においても、世界と日本では違いが見られます。欧米のIBスクールでは、PYP、MYP、DPのいずれかのプログラムのみを提供する学校が多いのに対し、日本では複数のプログラムを一貫して提供する「コンティニュアム校」の割合が高いという特徴があります。
これは、日本の教育が小中高一貫校の形態をとることが多いという背景があります。例えば、玉川学園(たまがわがくえん)や加藤学園(かとうがくえん)などでは、幼稚部から高等部までIBの理念に基づいた一貫教育を行っています。このような環境では、子どもたちは長期にわたってIBの学習アプローチに慣れ親しむことができます。
また、カリキュラムの内容面でも、日本のIBスクールでは日本の歴史や文化に関する内容が充実しています。グローバルな視野を育てると同時に、自国の文化や歴史に対する理解を深めることも重視されているのです。息子の学校でも、IBの国際的なフレームワークの中に日本文化の学びが自然に組み込まれており、外国人生徒も日本について学ぶ機会が多くあります。
進路選択と大学受験
進路選択や大学受験に関しても、日本と世界では異なる状況があります。欧米では、IBディプロマは大学入学のための一般的な資格として広く認められており、特別な準備なしに大学出願が可能です。
一方、日本では従来、大学入試は一般入試や推薦入試が主流で、IBディプロマだけでは日本の大学進学が難しい状況がありました。しかし近年、東京大学や京都大学をはじめとする多くの国立・私立大学が「IB入試」を導入し、IBディプロマの成績を評価して入学選考を行うようになっています。
例えば、慶應義塾大学(けいおうぎじゅくだいがく)では、IBディプロマ取得者向けの「IBコース」を設け、IBの成績と面接によって選考を行っています。このような入試制度の拡充により、日本のIBスクールを卒業した生徒の進路選択の幅は大きく広がっています。
息子のクラスメイトの進路希望も多様で、日本の大学を目指す生徒、欧米やオーストラリアの大学を目指す生徒、アジアの大学を目指す生徒など、様々です。IBディプロマがあれば、世界中の大学への道が開かれるという利点は、グローバル化が進む現代において大きな魅力となっています。
IB教育を支える保護者の役割と経験
家庭での学習サポート
IBプログラムでは、探究的な学習が中心となるため、家庭での学習サポートのあり方も従来の教育とは異なります。暗記中心の学習ではなく、子どもの「問い」を大切にし、一緒に考えたり調べたりする姿勢が重要です。
私自身、息子がPYPの探究単元で「持続可能なエネルギー」について調べる際には、一緒に図書館へ行ったり、関連するニュースを一緒に見たりしました。子どもの好奇心を大切にしながら、学びのきっかけを提供することが、IB教育を支える上で大切だと感じています。
また、IBスクールでは英語と日本語のバイリンガル教育が行われることが多いため、家庭での言語環境も重要です。私たち夫婦は、家では主に日本語で会話し、日本の文化や伝統に触れる機会を大切にしています。同時に、英語の本を読んだり、英語の映画を観たりする機会も設けています。このようなバランスの取れた言語環境が、子どもの両言語での成長を支えています。
国際的な保護者コミュニティ
IBスクール、特にインターナショナルスクールでは、保護者の国籍も多様です。このような多文化の保護者コミュニティは、子どもたちの国際的な視野を育む上で大きな役割を果たしています。
息子の学校では、年に数回「インターナショナルフェア」が開催され、各国の文化や料理を紹介するブースが設けられます。私も日本文化を紹介するブースで折り紙を教えたことがありますが、こうした活動を通じて保護者同士の交流が深まり、子どもたちも様々な文化に触れる機会を得ています。
また、保護者会の活動も活発で、新しく入学した家族へのサポートや、学校行事のボランティア、教育に関するワークショップの開催など、様々な形で学校教育を支えています。このような保護者の積極的な参加は、IBスクールのコミュニティ精神を形作る重要な要素となっています。
IB教育に対する保護者の学び
IBプログラムは、従来の教育とは異なるアプローチをとるため、保護者自身もIB教育について学ぶ必要があります。多くのIBスクールでは、保護者向けのワークショップやセミナーを定期的に開催し、IB教育の理念や方法論について理解を深める機会を提供しています。
息子の学校では、学期に一度「IB Parent Workshop」が開催され、「探究的な学習とは何か」「知の理論とは何か」といったテーマで教師からの説明を受けたり、実際に子どもたちが行うような活動を体験したりします。このような機会を通じて、私自身もIB教育の価値を深く理解できるようになりました。
また、他の保護者との情報交換も貴重な学びの機会です。異なる文化的背景や教育観を持つ保護者との対話を通じて、自分の教育観を見つめ直したり、新たな視点を得たりすることができます。このような多様性に開かれた環境は、子どもだけでなく保護者にとっても成長の場となっています。
オンライン時代のIB教育の変化
コロナ禍でのIB教育の適応
2020年以降のコロナ禍は、世界中の教育に大きな変化をもたらしましたが、IBスクールも例外ではありませんでした。しかし、IBの探究的なアプローチと技術活用の柔軟性は、オンライン教育への移行においても強みを発揮しました。
息子の学校では、ロックダウン期間中もオンライン上で探究的な学習が継続されました。例えば、バーチャル科学実験や、デジタルツールを使った協働プロジェクトなど、対面では難しい新しい形の学びも生まれました。教師たちは短期間でオンライン教育の方法を学び、子どもたちの学びを止めないための創意工夫を凝らしていました。
また、国際バカロレア機構も迅速に対応し、評価方法の見直しや、オンラインでのIB試験の実施などの措置を講じました。このような柔軟な対応は、IBが単なる教育制度ではなく、変化に適応する「学びの哲学」を持っていることの表れでしょう。
デジタルツールの活用とIB教育
近年、IBスクールではデジタルツールの活用が進んでいます。タブレットやノートパソコン、クラウドツールなどを活用した「1人1台環境」を整備し、探究的な学習を支える学校が増えています。
息子の学校では、低学年からデジタルリテラシーを育む授業が行われ、高学年になるとプログラミングやデジタルメディア制作なども学びます。これらのスキルは、情報を批判的に分析したり、自分の考えを創造的に表現したりする上で重要な要素となっています。
ただし、デジタルツールはあくまでも学びを支えるための道具であり、目的ではありません。多くのIBスクールでは、デジタルと対面のバランスを大切にし、年齢に応じた適切なテクノロジー利用を心がけています。例えば低学年では、手を使った活動や直接的な体験を通じた学びを重視し、デジタル機器の使用時間を制限するなどの配慮がなされています。
グローバルなつながりの強化
オンラインツールの発達により、IBスクール間のグローバルなつながりも強化されています。例えば、息子の学校では、オーストラリアやシンガポールのIBスクールと協働で環境問題に取り組む「グローバルプロジェクト」に参加しました。オンライン会議ツールを使って他国の生徒と交流し、共同で調査や発表を行う経験は、国際理解を深める上で非常に価値があったと感じています。
また、教師間の国際的な情報交換や研修もオンラインで活発に行われるようになりました。国際バカロレア機構が提供するオンライン研修や、世界中のIB教師が教材や実践例を共有するプラットフォームなど、オンライン環境を活用した専門性向上の機会が拡大しています。
このようなグローバルなつながりは、「国際的な視野」を重視するIB教育の理念をより深く実現するものであり、今後もさらに発展していくことが期待されます。
終わりに:IBスクールを選ぶ意味と価値
子どもの将来に向けた選択
IBスクールを選ぶことは、子どもの将来に向けた大きな選択です。それは単に「英語を学ぶ」ということではなく、「どのような考え方や学び方を身につけるか」という選択です。IBの探究的なアプローチ、批判的思考力、国際的な視野などは、変化の激しい現代社会を生き抜く上で重要な力となるでしょう。
重要なのは、子どもの個性や興味、将来の希望に合った教育環境を選ぶことです。IBスクールは一つの選択肢であり、すべての子どもに合うわけではありません。しかし、「なぜ学ぶのか」「どう学ぶのか」を大切にする教育を求める家族にとって、IBスクールは魅力的な選択肢となるでしょう。
私自身、息子のIBスクールでの成長を見て、彼が単に知識を身につけるだけでなく、考える力や表現する力、そして多様な価値観を受け入れる寛容さを育んでいることを実感しています。これらの力は、どのような将来を選んでも、彼の人生を支える基盤となるはずです。
日本の教育の未来とIB教育
近年、日本の教育も「主体的・対話的で深い学び」や「探究的な学習」を重視する方向に変化してきています。これはIB教育の理念と共通する部分が多く、IBの実践から学ぶことも多いでしょう。
実際、文部科学省は「日本型IB」の推進を掲げ、IB認定校の増加を目指しています。これは、IBの国際的な教育フレームワークと日本の教育の良さを融合させる試みと言えるでしょう。
また、大学入試改革やグローバル人材育成の流れの中で、IB的な学力観(知識だけでなく思考力や表現力を重視する考え方)が広く受け入れられるようになってきています。このような変化は、日本の教育全体の質の向上につながる可能性を秘めています。
最後に:子どもの可能性を信じて
IBスクールでの私の息子の経験を通じて感じるのは、子どもたちの持つ無限の可能性です。適切な環境と支援があれば、子どもたちは私たちの想像を超える力を発揮します。
例えば、息子のクラスメイトには英語が全く話せない状態で入学した日本人の子もいましたが、支援的な環境の中で徐々に英語を習得し、今では授業で積極的に発言するようになりました。これは、「英語は難しい」という先入観にとらわれず、自然な環境の中で言語を学ぶ力を信じた結果です。
日本語は世界で最も難しい言語の一つと言われるにもかかわらず、日本の子どもたちは自然と習得しています。これを考えれば、英語や他の言語を学ぶ力も十分に備わっているはずです。大切なのは、「できない」という思い込みではなく、「できる」という可能性を信じることでしょう。
IBスクールを含む様々な教育選択肢が広がる中、子ども一人ひとりの個性や興味に合った環境で、のびのびと学び、成長していく社会であることを願ってやみません。そして、子どもたちが世界中の人々と協力しながら、より良い未来を創っていく力を育むことができれば、これほど素晴らしいことはないでしょう。



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