
本記事で得られる知識
ネットショップを開業する際の送料設定の重要性についての解説です。送料を無料にする場合と、そうでない場合の違い、メリット、デメリットについても解説します。
記事の前提
個人事業主・零細企業がネットショップを開業することを想定しています。
記事の信頼性
筆者はネットショップ運営に精通しています。詳しくはこちら「運営者の紹介」
価格決定時の送料に対する正しい見方
ネットショップ開業時にあまり重要視されずに設定されがちなのが送料設定になります。
そして、ここの設定を間違うと想定していたよりも残る利益額が異常に低かったり、最悪の場合これだけ手間をかけて販売しているのに、赤字ということも十分ありえますので、ここはきちんと抑えておくべきポイントとなります。
支払送料と受取送料の違い
支払送料というのは、出店者が運送会社に実際に支払う送料金額のことを指し、受取送料は出店者が商品を購入するお客様から、予め出店者が設定した金額を受け取る分となります。
したがって、受取送料は単純に「売上の一部」であり、支払送料は「経費」となります。
利益計算から見る送料の位置
1注文あたりの利益額の計算式は、このような形になります。
粗利益 = 売上 + 受取送料 – 販売原価 – 支払送料 – 販売手数料 – 支払手数料 – 消費税
送料は受け取る分も、支払う分も、あくまで商品を運ぶ目的として設定されるものですが、何の戦略もなく設定する場合に、重要なのは「受取送料 – 支払送料」はプラスであるべき点です。
しかし、戦略的にこの部分をあえて見えないようにしたり、受取送料の金額を少なく見せてお得感を出すといった戦略も存在します。
送料無料の仕組みとメリット・デメリット
統計では、送料が設定された商品よりも、送料無料を謳う商品のほうが購買力が高くなります。
実際にアマゾンはプライム設定の場合に「送料無料」が大前提となりますし、楽天も強制ではないにせよモールとしては3980円以上は送料無料を推奨しています。
送料無料とはいっても、実際はそう見せているだけ・言っているだけで、基本的には購入者から送料を受取り、そして運送会社に送料を支払っている点は何も変わりません。
では、受取送料はどこに行ったのかというと、「商品の販売価格に転嫁」しています。受取送料に設定するべき金額を、ただ単に販売価格に上乗せしているに過ぎません。
原価計算の方法として、上記の計算の仕方ではなく、以下の計算式となっているだけです。
粗利益 = 販売価格 – 販売原価 – 支払送料 – 販売手数料 – 支払手数料 – 消費税
この状態で黒字を出す必要があるので、「受取送料」が無料というよりは、本来受け取る受取送料の金額が「販売価格」に乗っているだけなのです。
見かけ騙し的な形に聞こえるかもしれませんが、購入者・潜在購入者に購買力を高めるだけでなく、送料無料にする利点はさらに2つあります。
2個以上注文時の利益率が上がる
一度皆さんに考えて頂きたいのですが、送料金額が一番高いのは、商品をいくつ購入された時でしょうか?
意外に答えれる方が少ないのですが、答えは「1個注文時」です。
商品が1個注文される時が、注文金額総額のうち、支払う送料金額の割合が一番大きいのです。
この1個注文時の送料を販売価格に転嫁すると、2個注文された時に2回分の送料をもらっておきながら、1個の送料分で済むという計算です。
例えば、以下の商品があるとします。
- 販売価格 : 1000円(税込)
- 販売原価 : 500円(税込)
- 受取送料 : 無料
- 支払送料 : 200円(税込) (最大10個注文時この金額で出せるものとする)
- 販売手数料 : 税込販売価格の3%
この時1個注文された時の利益ですが、
1000円 – 500円 – 200円 – 91円(税) – 30円(販売手数料) = 179円
です。
では、これが2個注文された時の利益はいくらになるでしょうか?
答えは、
2000円 – 1000円 – 200円 – 182円(税) – 60円(販売手数料) = 558円
となります。どうでしょうか?このように、送料無料設定での価格設定で、2個以上の注文になると1個注文時よりも大幅に利益率が高いことが分かります。
もちろん、注文数量が増えるとその分、サイズ・重要が増えますので、ある一定の数量になると、1つ大きいサイズの支払送料とはなりますが、この際の1個あたりの送料金額が、受取送料を超えてしまうことはまずありません。
1個注文時の利益額を確保した販売価格設定ができていれば、注文数量が増えると利益率が増す計算になります。これが送料無料設定の仕組みになります。
全体的な客単価は低くなる
ただし、これはあくまで店舗側視点となります。
お客様も何も考えず買うわけではなく、2個買うと1個あたりの金額が高いということは、他のお店と価格を比べて商品を選んでいる時点で、完全に筒抜けです。
したがって、送料無料設定での注文の特徴としては「1個注文が多い」といえます。
実際に、プライムを可能にしてアマゾンで商品を販売すると、圧倒的に1個注文が多いことに気づきます。
お客様1人あたりの購入金額は比較的に低いことになります。
これを更に店舗側視点で見ると、梱包する回数は多くなりますが、梱包作業自体は1個のものが多いので、複数注文時のぴったりのダンボールがなかったり、やたら新聞紙を詰め込んだりという手間が少ないのも特徴です。
低原価商品の場合、1個あたりの金額が割高になる
例えば販売原価が100円で、支払送料が500円の場合、税金10%、支払手数料が10%の商品があったとします。
送料無料で、利益率20%で販売したいとなった場合、逆算で販売価格を定めると、
(100円 + 500円) / (100% – 10% – 10% – 20%)
= 1000円(= 設定販売価格)
(販売価格から算出すると)
1000円(販売価格) – 100円(販売原価) – 500円(支払送料) – 100円(支払送料) – 100円(消費税額)
= 200円(粗利益 : 利益率20%)
原価が100円の商品が税込みで1個あたり1000円となるので、これでは割高です。原価が低く、支払送料が半分以上の比重を占める場合は、購買者目線では必ずしも送料無料のほうが魅力的とは言えません。
他社価格や類似商品の販売価格を比較すると、この場合市場価格を大幅に上回っていることになりがちです。
更に複数個になると、より顕著になってきます。今度は2個注文された場合は計算してみると、
2000円(販売価格) – 200円(販売原価) – 500円(支払送料) – 200円(支払手数料) – 200円(消費税)
= 900円(粗利益 : 利益率45%)
となります。原価100円の商品2個なのに、2000円もお客様から頂くことになります。そしてこの2000円が市場売価と同等なのであれば、問題はありませんが、他社に比べて割高であれば注文さえしてくれないかもしれません。
商材の種類によっては、逆に購入者からのお店に対するイメージにも直結しますので、ここは慎重に考える必要があります。
送料設定時の特徴とメリット・デメリット
送料無料の方が店舗にとって有利なようにも見えますが、高い送料設定にする店舗も少なくありません。
送料無料時価格が市場価格を大幅に超えている場合
350円(販売価格) + 650円(受取送料) – 100円(販売原価) – 500円(支払送料) – 100円(支払送料) – 100円(消費税)
= 200円(粗利益 : 利益率20%)
です。送料無料設定時の利益率20%(上記の黄色のボックス参照)と全く同じ計算のはずです。
1個100円原価の商品2個で2000円もお客様から頂戴する上に、利益率が45%とあがっていますが、これだけと市場売価を大幅に上回っているので、すぐにSNSやストア評価で書かれてしまうと思います。
今度は、先程の設定に戻して送料ありで2個注文を受けた場合を計算してみます。すると、
700円(販売価格) + 650円(受取送料) – 200円(販売原価) – 500円(支払送料) – 135円(支払手数料) – 135円(消費税額)
= 380円(粗利益 : 利益率28%)
となります。1個だと割高感を感じますが、2個になると少し薄れるのが分かると思います。
この場合の、購入者の心理としては、送料が高いから「まとめて買おう」となるので、高くても送料を設定することで、注文個数が増えやすく、客単価があがりやすくなるメリットがあります。
送料設定の手順(最適な送料設定計算方法とは?)
ここでは実際に送料の設定の仕方の手順について解説します。
運送会社の送料表の準備
支払送料は運送会社の料金表に依存しますので、実際に発送する際に使う予定の運送会社の、運賃リストを用意しましょう。
運送会社のリストや、選び方のこつについては別の記事で詳細を解説してます。
商品の3サイズ・重量の計測
運賃のリストを手に入れた後は、販売する全ての商品について、1個あたりの縦・横・奥行きの3サイズとその重さを図りましょう。
この場合の商品サイズというのは、1個発送する際のパッケージサイズであり、更にそれらを包装した場合の3サイズ・重さを図ることをお勧めします。
例えば、本体だけでなく電源コードや、取説など、商品1個の中身が物理的に1つになっていないものについては、それらを包装でまとめた場合になります。
支払送料の額は、発送する際の商品の3サイズ・重量で決定されますので、これは販売前の時点で抑えておくポイントとなります。
発送に使用するダンボールの準備する
次に、発送する際のダンボール・封筒の準備です。これは商品の化粧箱ではなく、運送会社に引き渡す際の運送途中の衝撃や汚れを防ぐものと位置づけてください。
ダンボールや封筒はまとめて購入することになるので、ここはサンプル品を予め購入してみて、マッチするダンボールを選び、決めておく必要があります。
この理由は、運送会社に支払う送料は「商品の3サイズ・重量」ではなくそれを入れた後の「ダンボール・封筒の外寸の3サイズ・重量」で決まるからです。
ダンボール・封筒の選び方のコツはまた詳細を別の記事で解説します。
送料コストの決定
ダンボールが決定したら、次に送料コストを見ていきます。
決定の仕方は店舗単位(デフォルト設定)と、個別設定の2種類があります。
デフォルト設定の決定方法
ここは筆者の経験を元に解説します。
商品ごとに送料が違うと利益計算もしにくいですし、何よりお客様も計算できないのでイメージがよくありません。
ですので、コアとなる送料体系を1〜3ほど用意します。
具体的な送料決定の計算方法については別の機会に解説します。
個別送料設定の必要性
取り扱い商品が増えれば増えるほど、商品自体のサイズ・重量体系もパターンが複雑化します。
デフォルト設定に収めても黒字になるサイズ・重量では問題ないのですが、デフォルト設定の送料体系だと、大きく赤字になってしまうものに限っては、例外ということで個別送料設定することをお勧めします。
送料設定が利益率を決める
いかがだったでしょうか?
送料の設定によって、残る利益が大きく異なってくることが理解できたかと思います。
次回は戦略的な「送料価格の設定方法」について解説していきます。